第20話

どうしよう。勢いよく、アンティークショップ・クレイを出たが、何からすればいいのか分からない。困ったな。

 博物館に戻るか。何かヒントが残っているかもしれない。でも、何の為に黒い羽の天使はミロナの人形と漆黒のソウル・エッグを盗んだ?意図が分からない。あそこまでの事をして何もないはずはない。……理由はなんだ。それに何か引っ掛かる事がある。なんだ。何に違和感を覚えたんだ。

 歩いていると、旧バヌー・ジャザリー邸が見えてきた。

 そう言えば今日は博物館に行く前に立ち寄ったんだ。コクラを追って。

 ……コクラ?あ、そうだ。コクラにファイルとディスクをもらったんだ。その二つに何かヒントがあるかもしれない。

 ディスクはウエストバックに入っている。あとは休憩室に置いたファイル。天使が暴れて会議室が潰れていないか心配だ。早く確認しに行かないと。

 博物館に向かって、走り出す。

 一分一秒でも早く着かないと。今の自分にはそれしか出来ない。


 博物館の前に着いた。博物館の入り口には立ち入り禁止の柵が置かれている。周りには誰も居ない。

 俺は裏口に行き、中に入った。

 ……よかった。関係者通路の方は被害が出てない。きっと、ファイルは無事なはず。

 俺は急いで、会議室へ向かう。

「噓だろ。おい」

 会議室のドアには鍵が掛けられていた。誰が鍵を持っているか分からない。

 ……どうする。どうするよ、俺。……壊すか。それしか方法はないな。あとで謝ればいい。もし、弁償になったらその時考えればいい。

 俺は助走をつけて、ドアにタックルした。

「……上手くいった」 

 ドアに衝突した肩が痛い。でも、タックルしたおかげで会議室のドアは破壊出来た。

 俺は会議室の中に入る。中は真っ暗だ。壁を触って、電源ボタンを探す。

 あった。電源ボタンを押す。蛍光灯が点き、部屋中が照らされた。

「えーっと、あそこだったな」

 俺はファイルを置いた机へ向かう。

「あ、あった」

 置いていたファイルは無事だった。よかった。これで何かヒントを得る事が出来るかもしれない。

 俺はファイルを開いた。

「……なんだよ、これは」

 ファイルに挟まれていた資料はミネルさんが今まで行ってきた事だった。

 黒いソウル・エッグから生まれた生物に手錠などを使って、服従させて様々な街を破壊。紛争まで起こしている。ソウル・エッグから生まれた人間の人身売買など。他にも多くの悪行を行っている。

 あの人の笑顔の違和感が腑に落ちた気がする。いくら笑顔で誤魔化そうとしても、内から溢れ出すものは隠しきれてなかったのだ。

 と言う事はこの一連の事件にミネルさんが関与しているに違いない。それだったら、黒い羽の天使がミロナの人形の場所を分かったのも説明できる。だって、金庫室にミロナを保管する事を提案したのはミネルさんだ。それに黒い羽の天使の性別をはっきり言ったのはミネルさんだけ。つい、ボロを出してしまったんだ。

 俺はファイルを閉じた。そして、誰も居ないか確認する為に周りを見渡す。

 ……よかった。誰も居ない。もし、ミネルさんが居ればどう接すればいいか分からなかったから。

 俺はファイルを持って会議室を出て、関係者通路を歩いている。

 コクラはこれだけの情報をよく集めたな。普通に考えて数年はかかる情報量だ。それにまだウエストバックにはディスクがある。これを全て母さんに見せれば何か変わるかもしれない。

 裏口から外に出て、周りを見渡す。誰も居ない。なんだか、自分が泥棒になったみたいだ。何も悪い事はしてないのに。……いや、一つしたか。会議室のドアを潰し事。


 自宅の玄関のドアを開けて、家の中に入る。普段と何も変わらない場所。変わってほしくは無い場所だ。

「ただいま」

「おかえり」

「おかえりなさい」

 リビングからクロトさんとシュトラの声とケルベロス三匹の泣き声が聞こえる。

「シュトラ、来てくれ」

「は、はい」

 シュトラはリビングから出て来て、俺に駆け寄って来た。

「何でしょうか?」

「見せたいものがある」

「……はい」

 シュトラは頷いた。

 俺とシュトラは階段を上がり、俺の部屋に向かう。

「見せたいものとは何でしょうか?」

「この一連の事件の黒幕の正体だよ」

「黒幕の正体ですか?」

「あぁ、一番悪い奴だよ」

 俺はドアを開けた。そして、二人で中に入る。

 シュトラがドアを閉める。

「これを見てくれ」

 俺はファイルをシュトラに手渡した。

「は、はい」

 シュトラはファイルを開いて、資料を読み始めた。ページを捲る毎にシュトラの表情が険しくなっていく。

 シュトラはゆっくりとファイルを閉じる。

「どうだ?分かっただろ?」

「はい。誰がクソ外道野郎かを」

 シュトラは苛立っているように見える。いや、苛立っているに間違いないな。クソと言う言葉を使うのは本当に怒っている時だ。

「それにまだ見せたいものがある」

「まだあるんですか?」

「あぁ、まだ俺も見ていないものだ」

 俺はウエストバックのファスナーを開けた。中から透明なケースに入ったディスクを取り出す。そして、机の上に置いているパソコンの電源をつける。

 パソコンが立ち上がった。

 俺は透明なケースを開いて、ディスクを手に取る。

 パソコンの側面のディスクを読み取る箇所を開く。そこにディスクを入れて、閉じる。

 パソコンがディスクのデータを読み取り、画面にファイルが一つ表示された。

 俺はファイルにカーソルを合わせて、マウスでダブルクリックする。画面にファイルの中のデータが表示された。データ名は動画と書かれている。

「見るぞ」

「……はい」

 動画ファイルをダブルクリックする。

 動画が始まった。

 アルテヴィッヒの夜景の街並みが俯瞰視点で映されている。これはもしかして、街を囲う壁の上から撮られているのか。

 どんどん視点が上がっていく。

「こ、これって」

 シュトラは画面を指差した。何かが飛行船に向かって飛んでいるのが見える。

 俺は動画を停止した。そして、動画を拡大していく。

「……黒い羽の天使だ」

「動かぬ証拠ですね」

「あぁ、もう少し見よう」

 俺は動画を再生した。黒い羽の天使は飛行船へ入っていく。

 これがミネルさんと黒い羽の天使がグルだと言う事を証明した。

 動画は終わる。

「テルロ。ちょっといいですか?」

「なんだ?」

「この動画を見る限り、まだミロナの人形とソウル・エッグはこの街から離れていないって事ですよね」

「……そう言う事になるな」

 飛行船がまだ街の上空にある。どこかに行く前に何かしないと。

「まだ浄化出来るチャンスがあるって事ですよね」

「そ、そうだな。早く、これを母さんに報告しないと」

「ですね。今すぐ会社に向かいましょう」

「あぁ、そのつもりだ」

 俺はパソコンの側面からディスクを取り出して、透明なケースに戻す。その後、ウエストバックに透明なケースに入ったディスクを入れて、ファスナーを閉じる。

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