ヘイラ

白雪れもん

第1話

プロローグ


白い光が視界を埋め尽くし、目を閉じると、心地よい静寂が包み込んできた。何もかもが、まるで夢の中のようだった。


久我修司は、大学の帰り道、信号待ちをしていた。ふと視線を移すと、近くの音楽ショップのショーウィンドウに飾られた古い楽器が目に入る。音楽に興味があり、いつか自分でも弾けるようになりたいと夢見ていた彼は、心が少し躍るのを感じた。

しかし、その幸せな気持ちも束の間、突然、強烈な衝撃が彼を襲った。白い車がブレーキをかける暇もなく、修司を直撃した。世界が一瞬で歪み、彼は意識を失った。

目を覚ますと、修司は見知らぬ場所にいた。空は異常なほどに赤く、異世界の風景が広がっている。周囲には不思議な植物や奇妙な生物が息づいており、どこか異様な雰囲気が漂っていた。彼は周囲の景色に圧倒されつつも、自分の身体に違和感を覚える。自分がどうしてここにいるのか、現実か夢かも分からなかった。

突然、目の前に一人の中年の男が現れた。男は深い皺が刻まれた顔に、優しい眼差しを向けていた。彼の服装は中世の騎士のようで、何か神秘的な雰囲気を漂わせている。

「ようこそ、久我修司さん。」男が静かに話し始めた。「あなたは異世界「ヘイラ」に転生しました。」

修司は呆然としながらも、自分の名前を呼ばれたことに驚いた。「ど、どうして…僕の名前を?」

男は優しく微笑んで答えた。「あなたはこの世界に必要な存在です。ここでは、音楽の力が世界を救う鍵となります。」

修司は混乱しながらも、男の話を聞くうちに、自分がなぜここにいるのかを少しずつ理解し始めた。異世界「ヘイラ」は、失われた「ヘイラの譜」によって暗黒に包まれており、その謎を解き明かす者が現れるのを待っていたという。

「音楽が…鍵だって?」修司はまだ実感が湧かないまま言った。

「その通りです。」男は頷いた。「あなたには特別な力が宿っています。音楽の力を使い、この世界を救ってほしい。」

その言葉を受けて、修司は自分の手を見つめる。異世界での新しい人生が始まるという現実に、胸が高鳴るのを感じた。しかし、これからの困難な旅が待っていることも、彼の心に重くのしかかっていた。

修司は目の前の男の言葉を理解する暇もなく、突然の衝撃に呆然としていた。だが、異世界「ヘイラ」に転生したという現実を受け入れるしかなかった。

男に導かれ、修司は暗黒の森を進んだ。周囲には不気味な音が響き渡り、腐敗した植物や、異形の生物が蠢いていた。異様な風景に、修司の心は重く沈んでいく。

「ここは何なんだ…?」修司は恐る恐る尋ねた。

「これは暗黒の森。ヘイラの力が封印された地です。」男は冷静に答えた。「ここで君の力を試す必要がある。」

その言葉が終わるか終わらないかのうちに、突然、巨大な影が現れた。腐り落ちた肉片がぶら下がる異形の怪物が、修司たちに襲いかかってきた。

初めての戦い

「来るぞ!」男が叫び、剣を構えた。修司も慌てて何か武器を探そうとしたが、手元には何もなかった。

怪物が迫り来る中、修司は直感的に自分の体の中で何かが目覚めるのを感じた。無意識に手を伸ばすと、彼の手に光る楽器が現れた。それは不思議な形をした太鼓だった。

「これが…僕の力…?」

修司は恐る恐る太鼓を叩いた。その瞬間、音の波動が怪物に向かって放たれ、怪物は苦しみながら後退した。

「その調子だ!」男が応援する声が聞こえた。

修司はさらに力を込めて太鼓を叩き続けた。音の波動は次々と怪物に命中し、その度に怪物は苦しみ、やがて崩れ落ちた。

怪物が倒れた後、修司は息を切らしながらその場に立ち尽くした。自分の手にある太鼓が消え、再び空っぽの手を見る。

「君の力は確かだ。」男は満足そうに頷いた。「これが音楽の力だ。」

「音楽の…力…」修司は呟いた。

「だが、この力は使い方を誤れば、君自身をも飲み込むことになる。」男は厳しい表情で続けた。「これから君は多くの試練に立ち向かわなければならない。」

修司はその言葉に覚悟を決め、男と共に暗黒の森を進み続けた。やがて、彼らは一つの村にたどり着いた。そこには、異形の怪物に怯える人々が住んでいた。

村の長老は修司に感謝し、彼に重要な情報を提供した。「ヘイラの譜」を取り戻すためには、四つの楽器を集める必要があるという。その一つが、この村のどこかに隠されているというのだ。

修司はその情報を胸に、新たな冒険へと踏み出す決意を固めた。彼の心には、暗黒の世界を救う使命と、自分自身の力に対する恐れが交錯していた。

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