結局、3限4限と同じコマに出席し、出てきた頃にはなんだか可愛げがあるような気がしてくるから、人は怖いものだ。ギニアス様が言っていたこと愛など粘膜が作り出す幻想に過ぎんもあながち間違いではないのかもしれない。


 とはいえこれは、なあなあにしてよい感じの問題ではない。どうしたものかと考えているうちに1号館の前まで来てしまった。後ろを振り返れば何にも言わずに件の彼女は着いてきていた。ピクミンかな?


 妹君がこちらにいると言っていたから来たのだが……

 何処にいるか訊こうとポケットに手を入れると、さっと動く気配があったので見遣ると妹が居た。

 いつになく神妙な顔をしてこちらに向かってくる。手に何か持っているな。何をやらかしたのやら。


 ***


 微妙に要領を得ない会話をしながら話を聞いてみると、どうやらふみふみに会ったらしい、ということが解った。


 やはり服を借すのは安易だったか。

 あの人苦手なんだよなあ。

 入学した直後、綺麗な長髪ストレートのひとが居たからついお声かけしたのは、半分悪手だったと反省はしている。後悔はしてないが。


 すっかり自分好みのブラックウィドゥに生まれ変わった彼女について振り返っていると、我が姫が何か言いたげにしている。とりあえず帰りたいというか、もう要らんことに捲き込まれとうないというか。


「あの、自分ジブンどうしたらいいですかね?」

「うーん。もうなんか普通に友達として接してくれ」

「わかりました」


 恭しく、というよりはくてんと頭を下げる。

「とりあえずお疲れ様。また明日ね」

「はい。この度はすみませんでした」


 とぼとぼと帰る後ろ姿を見送りながら、何か忘れているような別にそうでもないような気分になる。

 だがまあいい。一先ずは帰るとしよう。あまりにも長い一日だったが、毎日これというわけでもなかろうし。

 そうだよな?

 うん、そう。


「帰ろうか」

「うん」


 世界は歌のように美しくないかもしれないが、それでもそこで生きているのだからしようがない。


 ***


 北口の改札を抜けて上に上がる。

「お兄ちゃんはこのままバイト行くけどどうする?」

「えー……じゃあまあ家帰っとくわ」

 そうだな。夜は危ない。良い子は家でぬんぬだ。

「スペアの鍵持ってるよね。これは夜ご飯代。上がりは25時だから寝てていいよ」

「ゑ゛。マジで? じゃあできないじゃん」

「少しは我慢を覚えろよ…… 三日も楽しんだだろ、少しは休め」

「うーん」

「じゃあな」


 すごく不満げというわけではなく、ただ、あると思っていたデザートがなかった、という顔だ。

 まあ、これくらい我慢してくれ。


 そのうち君は帰るんだ。

 いつまでも自分は君の隣には居ない。

 私が一緒に居たくても、居れないんだ。

 君がそういう性格だから、できるだけ共に居るつもりではある。

 だが、僕がそう望もうとも、世間体が、社会が、家族が、それを許すまい。


 だがあるいは。

 だが願わくば。


 それが許されるのなら。


 君はどうしたい?


 ***

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