第19話 財宝のありか⑨
「ま、一言で言えば俺はもう、揉め事に疲れたんだ」
しみじみと口にしたノックス。即座にレルタとセレネが反応。
「そのような軟弱な人間は雇えませんね」
「この洞窟で晩年まで過ごせ」
「手厳しくない!? 俺に対して随分と手厳しくないか!?」
「別にそのような事はありません」
「そこまで興味もない」
「厳しいよ! フェルメもそう思うだろ!?」
「うーん、どうだろうか」
どちらかといえば、レルタとセレネはこちらの方が通常である。公の場では大人しくしているけれど、そうでなければ僕以外にはこんな感じだ。
「本当にメイドかよ……」
「だから、半分は二人の趣味だってば」
「趣味ってなんだよ!? とにかく最後まで説明させてくれ。頼むから」
「分かった分かった。二人とも、良いかな」
「フェルメ様がそのようにおっしゃるのなら」
「さっさと話せ」
「極端すぎる……。と、とにかくだ、前にも説明したと思うが、俺は戦場帰りだ。寝ても覚めても血の匂いがする場所で1年以上、生活していたのさ」
「1年。それは結構長くいたものだね」
あくまで僕の聞いた範囲だけど、500日戦争に参加した者は、早くて一月、持って半年と言われている。だいたいその間に、死ぬか、怪我をして故郷へと帰ってゆく。
それでも給金は良いので、各国から一旗あげようと向こうみずが集ってくる、故に戦闘員には困らなかったらしい。
もちろん各地の正規兵も駆け巡る場所だ。正規兵からすれば、大半の傭兵の武など児戯に等しい。各国も、傭兵は人の盾程度にしか考えていなかったきらいがある。
「……運が良かっただけだ。結局、左目を失った」
「あれ? でもそれなら戦場でそれなりに稼いだんじゃないの? 今更、悪徳商会の傭兵稼業なんてしなくたって、悠々自適に暮らせるだろうに」
「……色々事情があってな。金はみんな置いてきた。で、今は金がない」
「全く?」
「ワイズさんからは、この仕事が終わったら最初の給金をもらう予定だった」
「なら貰っておけば良かったのに……」
「けどなぁ、戻ったらまた、傭兵稼業だ。商会の護衛くらいなら気楽なもんだろうと思って飛びついたが、とんでもない。それと、今、この国は少し不穏だ。前にも説明しただろ? 継承問題で揺れているって」
「そういえばそんなこと言っていたね」
「そんな状況で、東から旅人がやってきた。身なりはいい。金は持っていそうだ。そして絵描き。今回は不運だったが普段は穏やかな旅路だろ? さらに言えば、この国が危うくなっても、他の国に移れば良いだけ」
なるほど。ノックスは僕らを、安定雇用先と見定めたわけだ。事情は分かった、けれど。
「今のところ、僕らがノックスを雇う理由は何もないね」
全てはノックスの事情であるし、僕らだって無尽蔵に予算があるわけでもない。
「そこなんだが、御者はいるだろ? 護衛もできる御者、どうだ?」
「御者は私できますから」
「護衛は私がやっている」
即座に反応する双子。
実際問題、レルタとセレネがいれば、今のところ困っていない。それでもノックスは食い下がる。
「いやいや、確かにあんたらの実力は間違いないのだろうが、今回のように一気に囲まれた時、一方が馬車を操らないといけないんじゃ、不便だろ? 見たところ、フェルメが戦えるとは思えない。そうなると、大人数に囲まれたら、馬車も守りながら敵と対峙する必要がある。だが、そこそこ戦える御者が一人いればどうだ? 馬車は任せて戦いに集中できると思わないか?」
……なるほど。確かに今回、ノックスが指摘した通りの窮地に陥ったばかりだ。陥れたのはノックス達だけど。
「それに俺は、一応だが土地勘もある。今回みたいにな。道に明るい御者がいれば、より旅路が快適になるはずだ」
うん。なかなかの売り込み上手だな。ノックスの話を聞いて、僕はノックスを連れていっても良い気持ちになってきた。
レルタとセレネも、少しだけ考える仕草を見せている。それからセレネが口を開く。
「お前の武器はなんだ?」
質問されたノックスは一瞬きょとんとして、それからはたと手を叩く。
「そう言えば見せてなかったか。俺の武器は御者台に置きっぱなしだ。取ってくるからちょっと待っててくれ」
そういって馬車に向かうと、すぐに戻ってくる。その手には弓が握られていた。
「射手、ですか」
「けれど、武器を置いたままなのは、危機管理に難点がある」
「普段は手放さねえよ。今回はあんたらに警戒されないように置いてきたんだ。信頼の証ってやつさ。そもそもあんたらだって素手だろ?」
「私たちは問題ありません」
「素手でもノックス一人くらいは簡単に」
「簡単になんだよ!? こええよ!」
そんなやりとりを見て、僕は双子とも上手くやっていけそうだなと思う。
「ノックス、ちなみにだけど給金は出せないよ? ご飯は出すけど。たまに絵が売れたりしてお金が入ったらみんなで分けるくらいさ」
「そ、そうなのか? けどフェルメの絵はそれなりに儲かるんだろ?」
「どうだろう? 時と場合による」
なんならたまに損する事もある。
僕の説明にぐぬぬと悩むノックス、それでも少しして、
「いや、それでも雇ってくれ。あの商会よりはマシだ。なんならお試しで構わねえから。役に立つと判断したら、絵が売れた時、分け前をくれれば構わねえ」
お金が払えないと伝えたにも関わらず、食い下がるノックス。結局僕は押し切られるような形で、この隻眼の射手を雇うことにしたのである。
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