第22話 死を呼ぶ獅子

 ニスベル隊の若きエースであり、副隊長であるミナセは着実にレアル帝国軍の遊撃部隊であるザイード隊を追い詰めていった。


 ザイード隊の降下戦力の中で最も強力なゴードンは隊長であるガンが抑えてくれている。


 その間にミナセは他の兵士たちを仕留めるために動いていた。


 そして、彼女の指揮も相まってニスベル隊はザイード隊を後一歩で壊滅させられる状況まで来ていた。


 ここまで追い詰める際に犠牲になったのは1機のみ。


 彼の犠牲はとても惜しまれるが、それでもミナセたちは最小限の犠牲で彼らを追い詰めることができていた。


 それに、ミナセたちニスベル隊だけでなく、マタイ共和国軍の兵士たちもこの戦場へ続々とやってきている。


 これならば、押し切れると思った時、レーダーが何か不審なものを捉える。


 それはATLASであることは間違いないが、その速度が明らかにおかしい。


 ザイード隊が搭乗しているMessiahの5倍以上の速度が出ている。


 このことを不審に思ったミナセは、


「全軍に通達する!!何か不審なものがこちらに向かっている!!警戒態勢を取れ!!」


 この戦場にいる全ての味方兵士たちに警戒態勢を取るように指示を出す。


 次の瞬間、空中降下中の味方のGAMESたちが迎撃する間も与えられず、何者かの攻撃によって次々と撃墜されていった。


 ミナセたちは迫り来る敵機を撃ち落とそうと狙いを定めようとするが、相手の動きが速すぎて狙いをつけることができない。


 その間も味方のGAMESたちはどんどん落とされていき、空中投下中のGAMESのほとんどが謎の敵機によって撃ち落とされてしまった。


 ミナセが目の前の出来事に理解が追いつかず、混乱していると、いきなり空中から自分たちへ向けて謎の敵機が攻撃を仕掛けてくる。


 それに一早く気がついたミナセは、


「全員散開して!!」


 皆に距離を取るように指示を出す。


 ニスベル隊は彼女の指示を即座に実行し、ほとんどの隊員が回避に成功するが、1人だけ間に合わずに敵機の掃射によって撃破されてしまった。


 対実弾コーティングを施している装甲をこうも容易く撃ち抜いてくる敵機にミナセは嫌な汗が溢れ出す。


 そして、多くの仲間の命を奪った謎の敵機はミナセたちの前に着地した。


 その敵機はレアル帝国軍の量産機であるMessiahではない。


 頭には特徴的な二本角を携え、カメラもモノアイではなく、ツインアイとなっている。


 装甲は深い紺色であり、肩にはそれぞれレアル帝国軍の国旗と謎のエンブレムがある。


 そのエンブレムは紫雷を噛み砕く獅子のエンブレムであった。


 ミナセはそのエンブレムを見た瞬間、その表情にかつてないほどの絶望と焦りが見えた。


 レアル帝国軍は基本的に自国の国旗以外のエンブレムは描いてはいけないことになっている。


 ただしこれには例外が存在しており、レアル帝国軍の中でも他の追随を許さないほどの圧倒的な戦績を出した者のみに専用のエンブレムが授けられることになっている。


 そして、そのエンブレムを授けられた者たちを連合軍では証持ちあかしもちと呼ばれている。


 その中でも最近現れた証持ちは連合軍のエースパイロットたちを次々と撃墜した超危険人物である。


 その証持ちのエンブレムは紫雷を噛み砕く獅子である。


 そう、ビルトこそレアル帝国軍の中でも最強格のエースパイロットであり、『死を呼ぶ獅子ガンドレッド』その人である。


 ミナセは証持ちの中でも最強格のビルトと鉢合わせたことに頭を抱えるしかない。


 自分たちではどう足掻いても勝てない。


 ミナセは実際に対面してみて、嫌でもそう感じた。


 しかし、彼を放置することなどできない。


 そのため、ミナセたちは勝てないことが分かっていても戦うしかないのだ。


 そうして、ミナセたちとビルトとの戦いが始まったのだった。

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