第11話 メンテナンス代




「まだ昼食に招待された日時を迎えてはおらず、また、吾輩たちがそなたのアジトに出向く予定だったはずだが?」

「いやんいやんいやん怖い怖い怖い。咲茉えまよ。俺様を助けてくれ」


 岩の家を訪れたドクターこと祇園ぎおんは、仁王立ちになって出迎えたぜんから、同じく出迎えてくれた咲茉の後ろへと移動した。


「予定通りいかない事など多々ある事だろう。そんなに目くじらを立てるのではない」

「ドクター。仕事か?」

「おおそうだ仕事だ咲茉に手伝ってもらうべく、俺様がここまで足を運んだというわけだ」


 助け舟に乗り遅れるなと言わんばかりに、早口で告げた祇園は咲茉の手を取ると、さあ行こうと歩き出したのだが。


「善。緊急事態だ。早く行かせてくれ」


 祇園は自身の肩を掴んで行く先を阻む善を見た。


「仕事なのだ。行かせない理由はない。ただその手を離せ。咲茉はそなたに手を引かれ導かれずとも己の足でそなたと共に行ける」

「失礼。咲茉もすまなかった。気が急いていたのでな。つい」

「いや。気にするな、ドクター」


 祇園は咲茉から手を離しては、神妙な声で善と咲茉に深々と頭を下げたかと思えば、陽気な声で、では行くぞ咲茉と言いながら、すたこらさっさと歩き出した。


「マスター。では、メンテナンス代を払ってくる」

「ああ。待っている」


 善は咲茉の頬に触れるか否かの間際で撫でるようにそっと手を動かしてのち、その手で以て左右に動かしながら、咲茉を見送ったのであった。


 共には行かない。

 いつもここで待っていた。

 咲茉が五体満足に帰って来るのを。

 ただ、











(2024.8.17)



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