第6話 お代わり




 岩の家の客間にて。


(おお、こわやこわや。さてはて。日に三度も行っているメンテナンスで咲茉えまに何をしているのやら)


 ドクターこと祇園ぎおんは、白桃クリームのカンリーノ、白桃ゼリー、白桃とレアチーズのタルトがそれぞれ乗った三段のケーキスタンドから、皿ごと白桃とレアチーズのタルトを取り出すと、備え付けてあったフォークで横に真っ二つにして、口を厳かに開けて、半分を、続けざまにもう半分を口の中に入れて、あっという間に食べ終えた。


「いやいや。流石はぜんだ。いついつまでも忘れられそうにない。見事に調和し合った白桃とレアチーズのタルトであった。このザックザックのタルト生地が実にいい」

「ハッハッ。いついつまでも忘れられない味ならば、もうここを頻繁に訪れて食せずともよいな。月に一度の咲茉のメンテナンスだけを丁寧に済ませてさっさと帰るがよい」

「はははははは。またまた冗談を。俺様を邪険にしている振りなどしなくていいぞ。本当は俺様にもその秀でた料理の腕を振るいたくて堪らないくせに~」

「ハッハッハッ。吾輩は咲茉にだけ食してもらえれば大満足なのだがな」

「はははははは。一人だけで満足するような御仁ではないだろうに」

「ハッハッハッ」

「はははははは」

「やはり、マスターとドクターは仲がよいな」

「ハッハッハッ」

「はははははは。そうだぞ。咲茉。俺様と善ほど仲がよい者は居ないだろうよ」

「ハッハッハッ。それを言うならば、吾輩と咲茉ほど仲がよい者は居ないの言い間違いではないか?」

「はは。本当にそう思っているのか?善」

「ああ」

「………おお。いけないいけない。話に夢中で、白桃クリームのカンリーノと白桃ゼリーの存在を忘れていた。はははははは。善との話は面白くてついつい他の事を忘れてしまう。いけないいけない」

「クハッ。そうだな。吾輩もついつい集中してしまう。咲茉。お茶のお代わりは大丈夫か?」

「大丈夫だ。マスター」

「善。俺様にお代わりを頼む」

「ああ。すぐに淹れよう」











(2024.8.12)



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