見えない短編

春一番

柘榴

 一つの柘榴の実が、ある寺の境内に落ちてい

 その寺の住職は、寺の隣に住む村一番の美人の娘の風呂を覗いている時、足元に落ちていたその柘榴を見つけた。

 その林檎のような柘榴の赤を見ると、住職は袖で塵を取り、足と同じくらいの大きさの石で柘榴を割った。二つに割れた実から、また真赤な種が露出する。

 住職は一口啜るように頬張り、柘榴を片手に、また覗きを続ける。

 じゅるり、と娘の裸を見ている住職の口から垂れる。住職はそれを拭い、娘を見ながら、柘榴を一口頬張る。

 また、じゅるり。

 また、一口。

 じゅるり。

 じゅるり。

 口を拭う袖が、重く感じるほど濡れている。見れば、袖に赤い柘榴の種がべったりと貼り付いていた。

 また一口、柘榴を食べると、住職は境内から魔法のように忽然と消えた。


 一つの萎びた柘榴が、ある寺の境内に落ちていた。

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