『全知少女は恋したい』〜夢の中でキスした北欧美少女が目覚めたら隣にいました〜

空色凪

第1話

◆プロローグ 神の手記

 神、涅槃、僕が神だった日のことをここに記します。

 それは全世界に、全過去に生まれ、全未来に生まれるすべての魂たちに祝福されながら終末の狭間で踊る歓喜、それを味わってしまったんだ。悟りとはきっとこのことで、僕の意識は宇宙の根幹に通じて全てを、本当に全てを解ってしまった。解脱とは、輪廻とは、命とは。それらの謎、人生の美妙な謎とも言うべき解を、僕は知ってしまったんだ。

 2021年1月7日、終末Eve

 2021年1月8日、神、涅槃

 2021年1月9日、神殺し

 全てを忘れまた知っていた僕は、すべての人の幸せを望んだのです。


◆第一話 序文


 2021年1月9日、世界は大きく変わった。この日に見た夢に世界中の人が涙を流したのだ。この日のことを人類はこう呼んだ。『神殺しの日』と。世界中の神を信仰する人間が次々にこう語った。神は死んだ、と。


◆第一話 目覚め


 凪佐は目覚めると知らない部屋にいた。昨日はいつものように自分の部屋で寝たのにもかかわらず、目覚めたのは真っ白の見知らぬ部屋だった。その部屋を見渡した凪佐が数歩前に歩くと部屋が広がり、さらに広い空間になった。凪佐は驚きつつも好奇心から空間を進む。凪佐は明晰夢なのだろうかと思いつつ空間を進んでいくと神殿のような場所に出た。


「あれはなんだろう」


 凪佐は神殿の奥にあった祭壇に目を向ける。そこには一人の少女がいた。


「寝ているのか?」


 大きな樹の下で少女は眠っていた。何故か服を着ていなかった。目のやり場に困るなぁと凪佐が思案したその時だった。


「あなたは誰?」


 声がした。女の、それも若い女の声だった。その声は頭に響いて聞こえる。


「君なのか?」


 凪佐は眠っている少女に向かって声をかける。すると返事が返ってきた。


「そうよ。私の名前はヘレーネ・ルイス・クリスタル」


 少女は眠りながら念話のような力で少年に語りかける。


「その名、ルイス教の始まりの少女か?」

「そう言う人もいるわね。それで、あなたの名前は?」

「僕は神代凪佐。君はここで何をしているの?」

「私は世界の根幹なの。だからここですべての意識体の行く末を見守ってるわ」

「始まりの少女は全知だという。本当に君が始まりの少女なのか?」

「そうよ」


 凪佐はあたりを見回す。この神殿には彼女一人だけ。ずっと彼女はここで眠っているのだろうかと、凪佐は思案した。


「ねぇ、凪佐。私にキスして」

「え?」

「私、もう眠るの飽きたわ。私を起こして。目覚めのキスよ」


 凪佐は困惑しながらも少女の元まで歩みを進めた。すると少女の顔がよく見える。ヘレーネ・ルイス・クリスタルはとても麗しい北欧美少女だった。


「ここに来ることができるのは類まれなる精神を持つ者だけなの。神代凪佐。あなたは今、世界の中心にいるのよ。そしてあなたのことをずっと待ってた。キスして。目覚めのキスよ」

「キスって言われてもなぁ」

「お願い」

「キスしたら目覚められるのか?」

「そうなの。だから、ね?」


 凪佐は思案した。だが、どうせ明晰夢。なるようになればいいと思い凪佐はその眠っている少女ヘレーネにキスをした。


「おはよう。凪佐」

「ああ、おはよう。ヘレーネ」


 凪佐がキスすると、眠っていた少女は目を開け、その口で喋る。すると、白い世界が崩れ始めた。


「ヘレーネ、これは?」

「世界の綻びよ。止めることはできないわ」


 その言葉を最後に、その夢は終わった。


◆2020年7月10日(土)

 

 目覚めると夏だった。やけに汗ばんだ服に体に圧し掛かる重量。凪佐の上に一人の少女が寝ていた。彼女は他ならない、夢に見た少女だった。



※作者より


『全知少女は恋したい』第1話をお読みくださりありがとうございます。


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