第2話

 この星は無味乾燥な正式名称の代わりに、楽園の星と呼ばれている。まるで地球の南国のような気候のおかげで農作物や果物がふんだんに収穫でき、それを加工した品々はあらゆる星に届けられ、人気を博している。地球でこの星のものを食べようと思ったら、目が飛び出るほどの料金を払わなくてはいけない。

「お兄さん! 楽園パイナップルはいかが? 楽園マンゴーも美味しいよ!」

 信号待ちをしていると、トラックの運転席付近に小さな鳥型ドローンが飛んできて、そんなことを囀った。よくある小型ディスプレイではなく、手書きのお品書きが、そのお腹から飛び出してきた。珍しい趣向だが、あいにく俺は甘酸っぱい果物が苦手だ。軽く手で払うと、別の客を求めて飛び立って行った。

 そういえばポルは、甘酸っぱい果物が好きだったな。

 信号が変わり、アクセルを踏む。市街地が近づいてきて、先ほどのような販売ドローンが増えてきた。いちいち対応するのは面倒なので販売ドローン接近不可の信号を自動発信するように設定して、俺はなおもトラックを走らせる。積荷の届け先は、どれも都市の中心部だ。

 市街地は賑やかだった。あらゆる星からの観光客でごった返していて、どこを見ても人で埋め尽くされている。しかし秩序が失われていないのは、この星の条例に違反した者が厳しく取り締まられるからだろう。

 観光客の行列を横目に見ながら徐行していた時だった。

 市場にポルを見た。

 無意識にブレーキを踏んでいた。幸い後続車はおらず、キョロキョロと見回して見つけた駐車スペースにトラックを止め、俺は外へ出た。人を押し退け、かき分け、先ほど見た市場へ辿り着く。まだそんなに遠くへは行っていないはずだ。カラフルな人の頭、服、果物、陽気な音楽、すらっとした薄い体。

「ポル!」

 青年は、それまで見つめていたらしい青い果物からこちらに目を向けた。色素の薄い、翡翠色の目が、俺を見る。

「え……」

 動揺というには、その反応は薄かった。十年ぶりに親友に会った人の態度ではない。彼は目と同色の髪の毛を撫でるようにして、笑った。

「えっと、ポルの友達ですか?」

「え、あ……?」

 俺は狼狽えた。人違いだということが分かり、彼がポルと何らかの関係性にあることが分かり……多分双子か何か……、そしてそれと同時に、ポルが行方をくらました理由も分かってしまったからだ。

『遠い星のどこかに……』

 そしてそれが分かると同時に、俺は、俺の行動の無意味さに気がついたのだった。

 俺は踵を返し、呼び止めようとする青年の声を無視して、市場から出た。青年が追ってくる気配はない。俺は少し離れたところで足を止め、振り返った。青年はもう果物に夢中のようだ。そこへ、もう一人、彼と瓜二つの青年が現れた。二人は笑い合い、きっと俺の話を聞いたのだろう、後に現れた方が首を傾げるのが見えた。俺はそれだけ確認して、トラックへ戻った。ハンドルにもたれかかって、深呼吸を繰り返した。

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