詩小説~秘密の花園

そこは言葉が咲き乱れる花園だった

花々は馥郁とした声を発していた


赤い「あ」の花が揺れてため息をつけば

「嗚呼…」と聞こえた


白い「し」の花は「しぃ…」と小さな声で囁いた

そよ風が軽やかな日には「詩」と聞こえ

月が色を失くした夜には「死」と聞こえた


花が言葉となり言葉が花となる花園は

ときに訳もなく恐ろしくもあったが

目に美しく心に優しく映るのだった


詩人はそこで花を摘むように詩をつくる

言葉になった花束の色合いを吟味しながら

もっと新しい配色はないかと探索する


花園を行けばやがて花野となる

その先は月の領域へと続いているのだろう

詩人は果てしない道を歩き続ける

果てしなく未知を探し続ける


千々の花々が言葉となり

鮮やかな色彩を放つのを見るために



ある日うつむく大輪の花に遭遇した

熟した種がポロリと落ちては星になり

やがて宇宙の前庭となった

詩人は星の言葉で詩をつくった


白銀の月が頭上に浮かんだ


生まれる前に幽閉されていた

色なき世界を眺めたあと

詩人は来た路を振り返った


色に満ちた花園はまだそこにあった


月が黄色く染まり始めていた


https://kakuyomu.jp/users/rubylince/news/16818792440463133418

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