エリア3 人類生存圏日誌

馬西ハジメ

第1話 7月4日


 人類生存圏として、繁栄するエリア3は旧世界の文明を僅かに維持しつつ、緩やかに衰退していた。もしエリア外の人類のうち「要安眠者」というまともな人間がまだいるのであれば、エリア3にいる生存者達が皆、等しく口を揃えて謳う馬鹿げたプロバガンダを聞けば呆れて二度寝を決め込むだろう。エリア3を敢えて説明するとすれば、「よく食べ、よく寝て、よく遊ぶ」という子ども地味た文言こそ真理であると、本気で言い出したイカれた保育園だと言う他ない。いずれも慢性的な食料不足かつ旧世界の文明を冬眠させた原因不明の集団不眠による現状を鑑みれば当然矛盾している。質の良い食事と睡眠、健全な生活によって真の安らぎを得るということらしいが、現状は味気ない人工栄養食と粗悪な睡眠導入剤、爛れた性欲を指す。要安眠者とは、エリア外にいる文明人のうち、エリア3の庇護によって真の安らぎを直ちに必要としている者とされている。それ以外は夢遊病に犯された獣であり、旧世界より引き継いだ懇切丁寧なカウンセリングと薬物治療によるプログラムによって安眠を施さなければならないが、真にやむを得ない場合はこの限りではないため、つまるところ排除されることが多い。


 そういうことをきちんと理解した時、私達は本当に幸運だったと身に染みて感じたのだった。あの日、エリア3の防衛陣地から程近くのコミュニティーで生まれた私達は、物心がつくかつかないかの年頃に、要安眠者としてエリア3に収容もとい保護された。当時エリア3の実権を握っていた左派政治によって行われた要安眠者の積極的保護政策により、私達はこの地で生きることもなった。それがよかったことなのか、今となってはわからないが、結果として寿命が延びたことは事実である。


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