第22話 ルークとシエル
「キミは、合格発表の時に、僕の隣にいたね。同じクラスになるとは、偶然だ」
そんな丁寧な口調の声かけをしてくれたルーク・ルフェーブルは、実は傭兵団育ちの平民の少年である。
平民でありながら名門である王立オーベリア冒険者学園に首席合格し、一躍注目を浴びるルークは、やがて勇者の再来と呼ばれるような英雄として成長していき、『デウス』シリーズで発生する様々な戦乱や異変においても大活躍していく皆に愛される主人公キャラクターである。
原作では、シエルに気持ちの悪い絡み方をしていたサルヴァを強く止め、そのまま決闘に発展し、見事そのサルヴァをぼこぼこに懲らしめるシーンがこの初日で発生していた。シエルとルークの仲が近づくきっかけになる、大事なシーンである。
だが、サルヴァの人格が俺、長嶺暁に入れ替わった今世では、ルークは普通にクラスメイトであるサルヴァと友達になろうとするようだ。
「サリュ侯爵家の子、サルヴァ・サリュだ。よろしく頼む」
「翠風団で育ったルーク・ルフェーブル。平民だ。よろしく頼むよ、サルヴァ」
まずは挨拶を終えてみたが――
そこで一つ思った事があった。
――これ、早くも原作が崩壊してしまうのでは?
ルークとシエルの関係はある程度順調に進んでもらわないと、あのシーンとかあのシーンとかが無くなってしまって、みるみるうちに誰も知らないゲーム展開になってしまう気がする。
それはまずいな。
なにせ、俺の唯一のアドバンテージであるといってもいい、ゲーム知識を知っているという長所が活かせなくなってしまう可能性がある。
決闘まではしないにしても、ルークとシエルにはひとまず仲良くなってもらった方がいいだろう。
そう思った俺は、一計を案じた。
「ルーク、こちらの子はシエル・シャットというシャット家の令嬢だ。今少し話していたが、面白い子だよ」
そのままストレートにシエルを紹介してしまおう作戦である。
『デウス』で結ばれる二人なわけだし、きっと紹介すれば自然と仲良くなるだろう、と思ったのだが――
「サルヴァ、わたし面白い?」
「あ、ああ、面白いよ……」
「そう? むふふ……」
当の本人は、なぜか俺の方に話しかけて、褒められてちょっと嬉しそうにしている。
どちらかというと俺の方に興味があるという素振りなのだろうか? 分からん……
「シエル嬢、僕の名前はルーク・ルフェーブル。傭兵団〈翠風団〉で育った平民です。よろしくお願いします」
ルークが、めげずにシエルの机を挟んで挨拶をすると、
「ん、よろしく、ルーク」
とルークの方に手をひらひらっとさせてシエルが挨拶を返す。
「握手、しないの?」
どうやら今のは握手の催促だったらしく――分かりにくすぎる――ルークは慌てて一歩前に出ると、右手を差し出してそっと宝物のようにシエルの手を握る。
ルークは最初シエルの瞳をまっすぐ見つめようとしていたようだが、至近距離で見たシエルの美少女フェイスはあまりに刺激が強すぎたようで、顔を赤くして視線をあちこちに彷徨わせてしまい、気づけば手も震えてしまっている。初対面にして、すっかりシエルの可愛さに参ってしまっている様子だ。
そういえば、ルークは男だらけの傭兵団育ちだから、女慣れしていない初心なところがある性格だ、という設定だったな。
一方、対面して座ったままのシエルは、ニュートラルなままの表情でルークの顔や動きをじっと観察しているようだった。まるで画家がデッサン対象を観察しているかのような、ありのままを見つめているような様子。
「なんで手、ぷるぷるしてるの?」
そのものズバリ、突っ込んで聞かれたシエルの質問に、ルークはすっかり動揺してしまい、慌てて手を離すと、「す、すまない……き、緊張してしまって……」などとしどろもどろに供述している。
「ルークも、占ってあげる。わたし、占い、ちょー得意」
シエルはそんなルークの様子を一切気にせず、占いを提案する。マジでマイペースだな、このメインヒロイン……
「手だして」
ルークは、シエルの声に、またしても顔を赤くしながらも机の上に右手を出して置く。
「ふむふむ。むむむ」
シエルはその手を取ると、真剣に何やら覗き込んでから、
「好きになった女の子に、フラれる」
とルークの目を見つめて一言呟き、
「え、えええ! そ、そんな……」
と動揺するルークに、
「なんちゃって。これは冗談」
なんてふにゃっと笑って見せてから、
「でも、不遇な愛のために生きそうな感じ。これは本当」
とニュートラルな表情に戻して言う。
「そ、そうか……あ、ありがとう、シエル嬢」
「シエルでいい」
「わ、分かった、シエル……」
ルークは照れ照れっとしながら、シエルの事を名前を呼ぶ。
どう見てもルークはシエルの事を好きになっていそうな様子で一安心といえば一安心だが、不思議とシエルの方にはルークに惚れている様子は見当たらないな。
まあシエルはクーデレキャラで感情が表面に出にくいというのもあるのかな。
そんな推測をひとまずしておき、今後様子を見ていくという事でいいだろう。
その後、ホームルームの時間が近づいてきた事もあり、だんだんクラスメイト達が教室に入ってきて、それぞれ席についていく。
その後、一人の男性が前から入室し、黒板の前の教壇の上に立った。
「おはよう諸君。わたしはカサドール・シュタット。この特別クラス『Ⅴ組』の担任を担当する事となっている。よろしく頼む」
見覚えのある金髪の筋骨隆々としたイケメン教官の登場に、いよいよ『デウス』学園編が始まるのだというわくわく感を感じながら、この後に来る各キャラの自己紹介イベントを楽しみにするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます