第30話 魔導王国の騎士
「でかい……!!」
森の一角を切り取るように長く伸びる巨大な城壁。
まだかなりの距離があるが、周囲の木々と比較するに高さ十メートルはある。
以前に見たエンバンス王国の首都オーデウス。
都市としての規模は比較にならないだろうが、城壁の規模ならばいい勝負をするかもしれない。
そして、その奥に聳える目を疑うほどに巨大な樹木。
その樹高は雲を貫くほどで、大きく広がった枝葉は都市を覆いつくすかのようだ。
「あれは、もしや世界樹か?」
「世界樹は魔大陸にあるはずだから、たぶん違うし」
「けど、他にあんなどでかい木ってあるのか?」
あまりにも圧倒的な光景を前に、あれこれと言葉を交わすアリシアさんたち。
世界樹か……。
俺もその存在については、本で読んだことがある。
魔大陸に聳えるとされる巨木で、伝説では天を支えるほどの大きさがあるのだとか。
その葉や樹液は極めて貴重な魔法薬の材料となり、賢者が用いれば不老不死の霊薬エリクシルすら作り出せるという。
「あれは世界樹ではない。森人王様が我らエルフのために、世界樹から株分けして育てたものだ。我らは聖樹と呼んでいる」
「へえ……」
「世界樹はさらに数段大きいらしいぞ。我らも見たことはないがな」
そりゃまたスケールの大きな話だ。
こうして魔大陸にある世界樹に思いを馳せていると、やがて石畳の敷かれた街道へと差し掛かる。
俺たちが道を敷こうとしたことを批判していたエルフたちだが、どうやら自分たちはしっかりと都市周辺の道を整備しているらしい。
「……流石は六王の一角ですね。大樹海にこれだけの都市を築き、道を通しているということは相当の戦力を有しているでしょう」
「ムムルさんの言ってた騎士団だな」
「はい。平均レベル五十以上と言っていましたが、それはあくまで平均値。目の前にいるエルフたちのレベルを見る限り、上位の騎士はかなり突き抜けた戦力を持っているかもしれません」
「上の連中が平均を上げてるってことか。要警戒だな」
エルフたちに聞き取られないよう、細心の注意を払いながら会話する俺とマキナ。
やがて城壁が近づき、巨大な門が見えてきた。
鉄で補強された扉はとても重厚で、人が押したぐらいではビクともしなさそうだ。
こりゃ、ドラゴンが突っ込んでも破れなさそうだな。
「ここで待っていろ。上役を呼んでくる」
門の前で待つように指示された俺たちは、車を停めて大人しく待機した。
はてさて、一体どんな人物が出てくるのやら。
流石に森人王が出てくることはないだろうが、相手もマキナの能力をある程度認識している。
かなりの実力者が出てくることは間違いないだろう。
そう思っていると――。
「来たようですね」
「……おいおい、マジか?」
「やば!」
重々しく軋みながら、ゆっくりと開いていく扉。
どう見ても重さ数トンはあるであろうそれを動かしていたのは、あろうことかたった一人の男であった。
……おいおい、どれだけの腕力があったらそんなことできるんだ?
俺たちがその異様な風景に目を奪われていると、十分に扉を開いた男は軽く肩を回しながらこちらに近づいてくる。
その身体は男性にしては細身で、引き締まってはいるがあれほどのパワーがあるようには見えなかった。
「君たちが、我々と貿易をしに来たって言う者たちかい?」
「はい、そのとおりです」
「私はピエスタ、この国の上級騎士だ」
「……俺はヴィクトル、都市イスヴァールの領主だ」
相手の雰囲気にやや押されつつも、俺は自らの名前と立場を名乗った。
するとあらかじめ聞いていたのだろう、ピエスタさんはすぐに言う。
「とりあえず中に入りたまえ」
「わかりました。車ごとでいいですか?」
「かまわない」
こうして俺たちは城門を潜って街の中に入った。
街の入り口は大きな広場となっていて、他にも何台か馬車が停められている。
するとここで、マキナが車をひょいっと飛び降りていった。
「扉を閉めてまいります」
「いや、それは私が後で……」
ピエスタさんが止める間もなく、マキナは扉を動かし始めた。
……片手だ、しかもピエスタさんより明らかに速い速度で扉を動かしている。
マキナのやつ、あれぐらい自分にだってできるって言いたいわけか。
パフォーマンスをやり返されたピエスタさんは、大きく目を見開く。
その顔はどことなく引き攣っているように見えた。
「ほ、ほう……! なかなかやるではないか!」
「扉を閉めた程度のこと、褒められるようなことではございません」
「……まあいい。君たちはここへ交易をしに来たのだったな?」
「はい、そうです」
「ならば、商品は持ってきているのか? 確か君たちはコボルト族を傘下に収めているとか。ならば、ミスリルの原石あたりか?」
そう言うと、ピエスタさんは出してみろとばかりに手を差し出した。
すぐに俺は今日のために用意していた鉱石類のインゴットを取り出す。
ええっと、何がいいかな……。
いくつか種類のある中から、とりあえずミスリルのインゴットを手渡す。
するとたちまち、ピエスタさんの眼つきが変わる。
「これはなんだ?」
「ミスリルのインゴットですけど」
「そうではない! これほどの純度のミスリル、一体どのようにして用意した!?」
すごい勢いでこちらに詰め寄ってくるピエスタさん。
そ、そんなにヤバいのか……!?
突然のことに、俺は思わず目を白黒させるのだった。
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