第24話 ダンジョンについて

「ダンジョンってほんとですか!?」


 あまりのことに、俺はすごい剣幕でアリシアさんに聞き返した。

 ダンジョンと言えば、世界でも十二か所しか見つかっていない特異な領域である。

 その内部には強大なモンスターと無数の宝が眠るとされている。

 エンバンス王国にも一か所だけ存在したが、そこは王家の直轄領とされていた。

 噂によれば、ダンジョンのもたらす富だけで人口十万規模の大規模な領地にも匹敵するほどだとか。


「え、ええ。それより、ヴィクトル様はどうしてここに?」

「ムムルさんにエルフのことを聞きに来てたんだ。でも、それよりダンジョンだよ!」


 俺はググっとアリシアさんに顔を近づけた。

 すると彼女は軽く咳払いをして、呼吸を落ち着かせて言う。


「中に入ったわけではありませんが、山の洞窟の奥に門がありました。あれは間違いなくダンジョンの入り口でしょう」

「やはり予想した通りですね」

「……マキナはあらかじめわかってたのか?」

「ある程度は。マスターから頂いた鱗の変質具合から、相当に高い魔力を浴びたことは予想出来ましたので」


 そう言えば、例の鱗をマキナたちの研究所に引き渡していたっけ。

 あの鱗からそこまで推測していたとは、研究所の能力も大したものだ。


「今回の洞窟の調査は、ダンジョンがあるかどうかの確認も兼ねていました。皆様をぬか喜びさせないよう、今まで伏せておりましたが」

「そういうことだったのか。しかし、ダンジョンがあるといろいろ変わるぞ……!」


 ダンジョン内にはモンスターが沸いてくる。

 そう、いきなりポンッと無から生まれてくるのだ。

 正確には、地脈から湧き上がる魔力を材料としているそうだが……。

 重要なのは、倒しても倒しても時間さえあれば沸くということだ。


「とりあえず、ダンジョンにどのようなモンスターが出現するのか。一日に何体収穫できるのかを調査しなければなりませんね」

「収穫って、ダンジョンを魔石牧場にする気満々だな。いや、私もそのように提案するつもりだったのだが……」

「どうせならば、ダンジョンの一部を制圧して我々にとって都合の良い形に作り変えてしまいましょう。研究対象としても興味があります」


 ダンジョンの制圧か。

 ダンジョンを完全攻略して、核を奪取すれば可能だとか聞いたことあるな。

 実際に南方の軍事大国ではダンジョンを人間の役に立つように改良して、強大な力を得ているとか聞く。

 でも、ダンジョンの完全攻略なんて歴史に名を残す偉業だぞ。

 かの軍事大国がダンジョンを攻略した時も、在野から集めたS級冒険者とそれに匹敵する六魔将星とかいう軍の強者を総動員したという。

 今の俺たちの戦力では、とてもとても……。


「我々の力では厳しいな。マキナが加わったとしても、残念だが……」

「完全攻略して核を制御化に入れる方法は厳しいでしょう。ですが、ゴーレムを使えば上層部を実質的に支配下に置くことは十分可能です」

「どうやるのだ?」

「モンスターを即座に処理できるだけのゴーレムをダンジョン内部に常時配備すればよいのです」

「確かにゴーレムならずーっとダンジョンに居座れるけど……。敵の物量は無尽蔵だよ? いくらゴーレムの数を揃えても、そのうち壊されちゃう」


 俺がそう問題点を指摘すると、マキナは大丈夫とばかりに微笑んだ。

 何か作戦があるらしく、自信ありげな様子だった。

 そしてアリシアさんの方を見ると、すぐに質問を投げる。


「アリシア様はダンジョンに潜った経験はおありですか?」

「ああ。ミナスティルの上層部には修行のために何度も潜ったな」

「では確認なのですが、ダンジョンの壁や床は再生するというのは本当ですか?」

「その通りだ。壁や床がすぐに再生してしまうからこそ、無理やり壁や床をぶち抜いての強行突破は非常に難しいと言われている」


 アリシアさんの返事を聞いて、マキナは満足げな顔をした。

 いったい、何をするつもりなのだろう?

 俺たちが首を傾げると、マキナはゆっくりと説明を始める。


「端的に言ってしまえば、増え続けるゴーレムを作ればよいのです」

「増え続ける?」

「はい。まず、ゴーレムを製作するゴーレムを作ります。そしてその材料に、ダンジョン内で沸くモンスターの魔石とダンジョンの壁や床を使えばいいのです」

「なるほど……えげつないな」


 マキナの言いたいことが、おおよそ理解できた。

 無限に採取できる素材を使って、無限にゴーレムを作ればダンジョンを押しつぶしてしまえるという訳である。

 でもこれ、制御を間違えたらとんでもないことになるのでは?

 アリシアさんも不安を抱いたようで、うーんと渋い顔をする。


「何となくだが……。それをすると、ゴーレムが増えすぎてとんでもないことになるのではないか?」

「一定の個体数を上回らないように設定すれば問題ないでしょう」

「そうはいっても、ちょっと怖いな……。そのうちエラーが起きて、ダンジョン以外を材料にするゴーレムとか出たら危険すぎるよ」

「……わかりました。では、ダンジョンの制圧はせずに魔石の回収のみいたしましょう。ですが、自己複製型ゴーレムの技術的研究だけはしておきたいです。いずれ役に立つかもしれません」

「わかった、研究だけはしていいよ」


 俺がそう言うと、マキナは深々と頷いた。

 何はともあれ、これで魔石の安定供給のめどが立ったな。

 

「よし、ダンジョンから魔石が手に入ったらタロス型を量産しよう。それでエルフ領までの道を整備するんだ」


 こうして、俺の領地の当面の方向性が決定づけられたのだった。

 マキナに研究の許可を与えた自己複製型ゴーレム。

 これがのちのち、まさか領地を救うことになるとはこの時の俺には思いもよらなかった――。

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