第21話 解けない誤解

 私達はカウンターに入って事務所のような所を通って奥の扉へ案内された。

 部屋に入る際に受付の女性が軽くノックをして、特に反応を待つ事も無く無言で扉を開き軽い会釈だけをして中へ入るように手で促してくれる。


「お、来たね。待ってたよ」


 部屋の中へ入ると、部屋の奥にある執務机の椅子に座っていた男性が立ち上がって気さくな挨拶で迎え入れてくれた。

 男性は白い髭を生やして、体型は一見すると中肉中背で特徴の無い感じに見えたが、その所作は精錬されていて若々しさを感じる。

 また、その表情も明るく人好きのする笑顔を見せていた。


「はぁ?」


 良く分からないまま案内されて、私同様グレンも困惑しているのか、歯切れの悪い返事をして部屋に入る。


「まぁ掛けてくれ」


 それでも気にする事無く、部屋の主は手で目の前の三人掛けのソファーに座るように勧める。

 男性は、私達が部屋に入るのも待たずに、私達に案内したソファの前の背の低いテーブルを挟んだ向かい側に二つ有る一人掛けのソファの一つに腰を下ろす。


「すまないね、歳を取ると長くは立っているのは辛くなるんだよ。どうぞ君も遠慮なく座ってくれ」


 こちらに遠慮させないようにと、明らかに嘘だとわかる言い訳を交えてさっさと座ってくれたのだろう。


「それでは失礼します」


 そう言って、グレンも遠慮は意味と長椅子に腰を下ろす。

 長椅子に座るとそれは沈み込むような感覚を感じるほど柔らかく、光沢のある革張りはとても高そうで私は緊張しているのにグレンは平気そう。

 その堂々とした態度を見てその白髭の男性は、一つ頷くとより深い笑顔をみせた。

 そんな中私達の左肩の置物のように静かに佇むねこさんの姿に怪訝な表情浮かべる。


「そいつは生きてるのか?」

「ん?ああ。そういう生き物だと思って気にしないで下さい。

「そ、そうか」


 少し困惑したようですが、それ以上は突っ込む事を諦めたように苦笑いを浮かべた。


「おおと、そういや先に挨拶すべきだったね」


 そう言ってテーブルに左手をついて身を乗り出すような姿勢で右手をこちらに突き出して握手を求めてきた。


「私の名前はファルシェン。近しい者はファルと呼んでくれている。商業組合の長をやらせてもらってる。君もファルと気軽に呼んでくれ」


 グレンは気押されながらも苦笑いを浮かべつつ立ち上がってから、同じく右手を出して力強く握手を返す。


『年寄りの力じゃないな……』


 別に痛かったわけじゃないのだろうけれども、思ったより強く握り返されたらしかった。


「ありがとうございます。こちらこそ挨拶が遅くなりました、私はしがない旅商人のグレンと申します。お聞きになってるかもしれませんが、先日はこの街の方には命を救って頂いて感謝しております。それで少しでもこの街に恩返しが出来ればと、行商人としてできる事をと思いまして、この街で商売をさせて頂きたく組合加入のご相談にまいりました。」


 そう言って、握手の後に胸に手をあててからじっくりと時間をかけて、頭を深く下げた後、グレンは目一杯の笑顔を浮かべた。


「ああ、ええ聞いていますよ。グラウンドオーガでしたっけ?、無事でよかった。」


 そう言いながらファルさんは再び手で座るように促しながら自身も改めて腰を下ろす。


「いえ、街に危険を及ぼす様な事をしてしまい、変申し訳ございませんでした」


 再度頭を下げようとするグレンをファルさんが手で制する。


「ああ、良い良い気にしないでくれ、何事も無かったんだしグランドオーガは確かに厄介な魔物ではあるが……、一匹だったのだろう?その程度では我が街の守衛なら問題ない。実際直ぐに森の中へ逃げ帰ったと報告を受けている」

「はい、本当に逃げたのか迄は分かりませんが、森に帰っていったらしいですね。」

「なら問題ないさ、逆に本来はこの辺りに居ない筈の魔物だからと言う情報を与えてくれたと見る事もできる。既に幾人か近くの森を調査するように派遣している。まぁは人手が足らなくて後手に回り気味だが、西門側から出入りする者に注意させて置けばなんとかなるだろう。」

「はぁ」


 私達としては、迷惑をかけた以外の感想は無く頭を掻くように困った表情をして見せるしか無いのですが、気にする事は無いと強調してくれているのでしょう。


「まぁ、それは良いとして、それにシラネイロも採取して持ち込んでくれたのではないか?既にカランラック商会の長男が先程修道院に納品が済んだと連絡して来たと聞いてる。それも君だろう?私はそう聞いている。」


 仕事が早いのか、それほど急いで居たのか西門に一度寄ってる間に既にナバルさんは修道院に納品し、ここへも報告を済ませたらしい。

 しかしそれは……。


「失礼ですが、確かに私がナバルさんにお渡し致しましたが、何故商業組合に彼は報告に来られたのですか?」

「ん?聞いて無いのか?カランラック商会長のジジイが昨日の自分の息子のやらかしを聞いて、君を探す為に今朝早くから組合に協力を仰で来ていた。そのお礼とお詫びだよ。まぁ組合以外にもな」

「ジジイで悪かったな」


 そう話してる途中で突然に別の声が入り口の方からしたので、そちらへ視線を向ける。


「おや、来てたのか爺さんよ」

「わざわざ喧嘩を売ってるのか?そりゃて……いや今日は止めておこう、実際に今回はうちの馬鹿が迷惑をかけた話しだ、グレンさんだったか?本当に申し訳ない事をした」


 そう言って入り口に立っていた白髪だがしっかりと髭は剃ってるのか小綺麗な姿をした初老の男性が頭を下げる。

 服装は一般的な町民のそれよりは上等そうだが、それだけだ。

 別段華美な服装とは言えないような。


「いえ、別に特別な事はなにも……」


 グレンがそう遠慮がちに答えようとしたが、それを遮って彼は話しを続ける。


「いや、本当に申し訳ない。蜜の件もかなり足元を見るような金額を付けたようだし、それなのにシラネイロを売って頂いたと聞いた。重ねてお礼をのべさせてくだされ……ところでそれは、生きてるのか?」


 そう言って頭を再度下げようとして男性が左肩のねこさんに初めて気が付いたのようで、固まる。


「ええ、そういう生き物ですので気にしないで下さい」

「いや、しかし……」

「それぐらいにしときな、グレン君が困っているぞ?、それよりも自己紹介が先じゃないのか?」


 そういってファルさんが助け舟を出してくれ、男性は慌てて自己紹介に移る。


「おお、そうだったな!私はカランラック商会の商会長を務めるラウブだ、よろしくな!」


 そう言ってグレンの側に歩み寄って右手を差し出すのでグレンも慌てて立ち上がり、右手を差し出す。


「私は行商人のグレンと言います。肩の鳥はこの街に来る途中で拾った奴ですがあまり気にしないで下さい」


 よろしくお願いします。と強く二人で握手をする。


「お詫びも挨拶も済んだ事だし、こっちは大事な話しをこれからするんでね、悪いが用事があるなら外で待っててくれないか?」


 二人の挨拶が終わるとファルさんが面倒くさいと言った感じの声音でラウブさんにそう言って追い出そうする。


「いや、私の用事は済んだのでこれで帰るよ。あとはよろしくな?」


 二人だけで通ずる何かをやり取りするようにファルさんの目を見ながらそう言う。


「わかったわかった、さっさと帰ってくれ」


 それを、虫でも追い払う様に手を上下に振ってラウブさんを追い出そうとするファルさん。


「言われなくても帰るさ。グランさん、本当に申し訳なかった、それじゃまた何か用事があればいつでも店の方に来てくれ。馬鹿長男含めて家の者には言って置くから遠慮しないでな?」

「はい、わかりました、その時はよろしくお願いします」


 ラウブさんはグランと挨拶を交わすと素直に部屋を後にした。

 ファルさんが閉まろうとしている扉の向こうに居る受付嬢に向かって嫌味っぽい口調で言う。


「誰も通して欲しく無かったんだがな」

「言われてませんので」

「君なら言わなくても分かっているだろう?」

「……」


 無言のままファルさん見る受付嬢の目は冷たかった。


「ああ、もう分かったよ!この後は私が言うまで誰も通さないでくれ!」

「かしこまりました」


 そう言って受付嬢は無表情のまま扉を閉めた。

 入り口で受けた印象とあまりにもの違いに私は驚いていたし、グレンも驚いたような表情でファルさんを見つめている。


「すまん、アレは私にだけには当たりがきついのだよ……気にしないでくれ」

「はぁ……」


『ファルってのはなんか変な事でも受付嬢にしてるんじゃね?』

『私に聞かれても分かりません!』


 しょうもない事を言うグレンに呆れて冷たく突っ返すような返答になってしまったが、グレンはあまり気にしてないらしく特にそれ以上、何も言う事は無くファルへ向き直る。


「さてグレン君、今言える事は他に何かあるかね?」

「?」


 唐突な意味不明の質問に私もグレンも頭の上に?マークを浮かべてキョトンとしてしまう。


「ん?、ん~私は色々知ってるから、別に隠す必要はないよ?」

「ええと、すみません仰ってる意味がいまいち分からないのですが」


 今度はファルさんの方が一瞬キョトンとした表情を浮かべる。


「いや、だろ?君が?、だからシラネイロも無理をしてまで採取してきてくれたのでは?」


 本当に何が言いたいのか分からない私達はキョトンとしたままだ。


「ん~……まぁいいか、分からないなら分からないで。今言った事は忘れてくれ」

「はぁ」


 なんとかそう答えるだけの回答しか出来ない無いグレンは素直に頷いて、それ以上聞いても余計な事に巻き込まれかねないと口を閉じた。


「そうだ、商業組合に加入したいんだったか?」

「え?あ!はい!、ご迷惑でなければですが」

「ん~、良いんじゃないか?ちょっと待ってくれ」


 そう言うとファルさんはソファーを立ち、執務机の引き出しを開けてから一つのペンダントを取り出して着て、私達の目の前のテーブルに置く。


「これは?」

「それは、通商許可が下りて居る者に渡される組合員章だ。すごく特別なやつだぜ」

「通商許可は持って居りませんが……」

「大丈夫だ、私は一応発行権を持ってるいるからね」


 ファルさんはそう言ってニヤリと悪戯が成功したような笑顔を向ける。


「そういう事であれば、有難く頂きます。」


 そう言って、グレンは遠慮なくをのその組合員章を掴む。


「よし!取り敢えずこれで用事は全て済んだな!」


 そういってファルさんは立ち上がり、つかつかと歩いて扉まで行き開いた。

 グレンもそれに促されるよに立ち上がり扉まで近づく。


「おお、そうだ!忘れてた!修道院には早めに顔出してくれよ!色々緊迫……いや、あちらもシラネイロの件ですごく感謝していたからね!」

「いや、特に私には用事は……」

「わかったわかった、そう言う事にしておくよ!、それでも早めに顔を出してくれたら助かるよ!すごくしていたからね!」


 そう言われながら私達は促されて組合の建物を後にした。



「よかったのですか?」


 受付嬢はグレンたちを建物の外まで案内する際にグレンの手に握られていた物の事を指して言う。


「間違いないだろう、彼らがそうだ」


 自室の部屋の窓から、建物から遠ざかるグレンを見送る二人。


「しかし、それっぽい事は何も言ってませんでしたし、エヒト様の質問も分かって無いようでしたが?」


 疑わしげな目線でファルをみる受付嬢に肩を竦めて答えるファル。


「ああ、だが反応が淡泊過ぎた。これでもそれなりの私は威厳のあると思っていたが焦り一つ無かった。普通なら偉い立場の人間と会談するとなれば、何も知らないそこらの行商人ならもっとおどおどするもんだろう?、特別扱いの徽章にも驚き方が落ち着き過ぎてるんだよ、逆に演技してますってバレバレだ」


 そう言って、笑うファルにの背中に向けて気付かれないように溜息を一つ漏らしてから受付嬢は答える。


「確かにそうですね(エヒト様に威厳があったかは別ですが)」


――――――――――

こんばんわ猫電話ねこてるです!

因みに、ねこさんはずーっとこの後もこんな感じです。

けっしてマスコット役ではございませんので可愛くもありません。あしからず。

それと、次回20日の予定ですが、それでストックが切れますので以降は不定期公開に変更致しますのでご了承お願い致します。(*- -)(*_ _)ペコリ


あ、昨日公開が記念すべき閑話を覗いて20話目でした!頂いたコメントで初めて気付きました!ありがとう御座います!次が30話、そして100話、それを目指して頑張ります!


◇次回 第22話 相談1


 取り敢えず修道院に行くかどうか相談する二人。まぁ行く事になるんでしょうけど! それよりも、ちゃんとした宿を早く取りなさい!

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