第18話 薬草

「確かに、入壁税と蜂蜜売価の一割で合計銅貨9枚だ。種類はクレリオットだ。ガーフルなら半分でいい。」

「端数は切り上げか?」

「そうだが?」


 ルベルトさんは特に気にする風も無く答えながら、何やら指で部下に指示を出して一つの鍵付きの箱を受け取りテーブルに置く。


「この箱に入れてくれ」

「これは?」

「不正対策さ、個人的にはあまり意味が無い気がするがな……」


 集金したお金はこの箱のまま収める事で、一般兵の中抜きを防ぐって為ってことなんでしょうが、そもそも集金をなかった事にしたりといくらでも抜け道がありそうで意味は無さそうに思えますが、それでも無いよりはましって事なんでしょうね。


「……端数を鉄貨で計算とかしないんですか?」


 そう言った瞬間、ルベルトの眉間に酷く皺が寄るのがはっきりと分かった。


「鉄貨って、ありゃぁ正式な貨幣として認められてねぇだろうが、こんな所で使えるわきゃねぇだろう?」


『え?じゃ昨晩の宿屋の払いって??』

『正式に発行された物じゃないんだろうな、裏路地じゃ銅貨でも高すぎて勝手に作ってるとかじゃないか?』


 それでもと、情報は仕入れておこうとグランは質問を続けるみたい。


「正式じゃないって事は、どっかが勝手に作ってる端貨って感じの存在なんですか?」

「……何言ってんだお前?、商人なんだろう?」

「いえ、すみません地元じゃ鉄貨なんて見た事なかったので、この町じゃ普通な貨幣なのかと思いまして」


 そんな事もしらんのか?と疑った目線を向けられて焦る私と違ってグランは予想通りだったのかそれほど焦ってない。

 落ち着いて答えているが私が焦った表情を浮かべてしまったので、すごく不自然な感じになってしまった。


「って事は昨夜は裏道の宿に泊まったな?」


 ルベルトさんは訝しげな表情で私達の顔を見ながらそう言ったものの、それ以上は得に突っ込む事も無く机の上の小箱を指でトントンと叩く。


「はぁ、まぁいいから早く入れろ」


 私はグランに出してもらった銅貨を一枚づつルベルトさんに見えるように、 足りて良かったなぁなどと小さな事を考えながら、その小箱に入れていく。


「うむ、確かに確認した。これで正式に我が街ヴィラへようこそ!ってな」


 そう言ってルベルトさんは胸の前で両手を打って笑顔で歓迎の意を示してくれた。

 それから笑顔を崩さずにそのまま手を組んで両肘をテーブルに置き、こちらを伺うように話しを続ける。


「で、薬草売れなかったんだろう?今後どうするんだ?銀貨三枚しか手に出来てなかったんなら、手元には殆ど残ってないだろう?今日の宿も厳しいんじゃないか?」


 今日も昨晩の宿ならばなんとかなると思いますけど、流石にまた今晩も泊まるのは遠慮したいなぁ、と思ったところでグランがルベルトさんに質問する。


「ある程度まともな宿で安い所無いですか?それと宿の相場も教えて頂けると助かります」


 そうだよね!流石グラン!聞きたい事を聞いてくれる!

 思わずグランの言葉にヨシ!って感じで拳を握ってしまった。

 ルベルトさんが言葉と手の動きに一貫性が無い事に気が付いたのか不思議そうな目線で手に視線を送るので慌ててテーブルの下へ隠す。


『グラン!す、すみません!やっぱりグランの喋ってる時に身体を動かすのは全部お任せして良いですか!』

『……その方が良さそうだな』


 流石に二つの意志がこの身体に有るっては思わないでしょうが、変にグランの言葉を疑われるのは得策じゃないよね。


「……そうだな、昨日教えた商会が有った角を右に曲がって暫く行った所に小麦とベットの看板を掲げてる豊穣の宿って所なんかどうだ?、素泊まりで大部屋なら銅貨1枚位だ。個室なら部屋によるが2~3枚だったと思うぞ?、もっと中央に行くと金持ち向け以外に大部屋は無くて、一泊5~6枚が最低価格になってくるな。因みに裏道の宿はお勧めはしない」


 そう言って、こちらを伺うように忠告を一つ入れて教えてくれる。

 グランは謝辞の代わりに軽く手を上げて「それでは」と兵舎を後にした。



「さて、これからどうするか」


 兵舎をでて直ぐ腰に手を当てて空を見上げながらグランはそう私に声をかける。


『そうですね、宿の場所は昨日見たのでわかってますし、時間もあるので街の中でも色々見てまわりませんか?』

「そうだな、それも有りか。何が売れるのかも調べた方が良いだろうしな。もっとも何も持ってないけどな……、それじゃあらためて身体は任せる」


 そう言って、大きな溜息を一つ吐いて身体の制御を私に返してくれる。


『市場の場所もルベルトさんに聞いておいた方が良かったですね……』

「そうだな……」


 小さく呟くような答えは自信無さげだったので、恥ずかしかったんだろうなと、ちょっと可笑しくてくすりと笑ってしまった。


『取り敢えず街の中央の方に向かって歩いてみますね?きっと何かあると思います』

「そうだな、それにレスティの記憶に引っかかるような物が有ったら、そっちを優先して構わないからな」

『はい!わかりました!』


 色々心配な事は多いけれども、街を見てまわるのは記憶に無くても何か訴える物があるようで、どこか懐かしい感じと相まってやっぱりワクワクして声が上擦ってしまったのでグランから笑われてしまった。


『そうですね!結構楽しみみたいです』


 私は恥ずかしいって気持ちを気が付かれないように何事も無かったようにそう答える。

 私達は会話を続けながら昨日通った大通りをまっすぐに進んで行き、やがてカランラック商会の前まで来た。

 昨日は開いていた扉の左右の窓は分厚そうな板で閉じられており、まだ開店していないようだ。


「昨日の商会、閉まってるな?」

『そうですね、気になりますか?』


 カランラック商会以外のお店らしい建物は殆ど窓を開けたり、店によっては入り口も開けっ放しにしていて、時間的に早いからやってないとかでは無さそうに見えるので不自然な感じがする。


「いや、まぁなんとなく目に付いただけでどうでもいいんだが、そもそも昨日の店の雰囲気からして直接販売はあまり重視してる様子は無かったからそんなもんかもな」

『そうですね』


 私達は固く閉じられた商会の入り口を見ただけでそれ以上は気にしないで、足を止める事無く活気の有りそうな道の先に向けて歩みを進めた。



 暫く進み街の中央付近に到着すると、まだ準備を進めてる店舗もあるが多くの店が既に客を迎えて騒がしくしていて楽しくなる。

 いわゆる青空市場のような場所らしく、簡易なテントや地面にゴザのような物を敷いてその上に手作りの工芸品のような物や籠に入った果物や野菜を売ってる店が軒を連ねていてとても賑やかだ。


『なんかすごいですね!』

「そうだな、活気がすごいな」


 色々目移りしてしまって視線を一か所に留める事無くせわしなく動かしてしまう。

 そんな中ふと視界に入った一つの店舗に気が付いて視点を止めると二人同時に呟いた。


『っあ……』

「お、古着売ってるのか」


 グランは明るくそう口にしたが、逆に私はとんでも無い事を思い出して、思わず腕で色々隠すような姿勢になってしまった。


「っちょ、その態勢はやめてくれ!」

『で、でも……』

「仕方ない、ごめん制御はもらうぞ!」

『え、ちょっとまっ』


 私の静止を待たずにグランは身体の制御を奪うと、色々隠した腕を堂々とおろす。


「大丈夫だって、ちゃんと幻影は効いてるから」

『そういう問題じゃないんです!』


 そんな私の抗議を無視してグランはその古着やさんの前でしゃがむ。


「なぁ若い子が好みそうな服とかあるか?」

「女の子かい?」

「ええ、成人前後位の子で……背丈は俺の肩くらいだ」

「そうさね……、これなんかどうだい?傷みも少ないし流行りからもそんなに離れてないさね」

 そういって、立ち上がって肩の高さ辺りで右手を開いて小さく左右に振るグレンに、古着屋の主人らしき中年の女性が、目の前の古着の中から一つ取り出して広げる。


「いくらだ?」

「9枚だね。言っとくけど鉄じゃないからね?」


 店主はグランを頭から足元まで値踏みするように視線を向けてから、残念そうな声色になって、一旦広げたその古着と地面に広げてる古着と共にグランから少し離すように手繰り寄せながら、訝しげな視線を向ける。

 グランの恰好はボロボロな旅装束に見せてるせいか、あまりお金をもってるように見えないよう見えたのかもしれない。

 もっとも実際にお金はあまり持っていないのだけれども。


「ふむ、ではそっちの靴とそこの下着っぽいやつ2枚程一緒に銀1でどうだ?」

「へぇ……じゃぁ銀1と銅1で買っとくれ」


 銀貨を見せた事でお客だと判断したのか、急にご機嫌な表情になってそう答えてくれる。


「じゃぁ、銀1と鉄10ではどうだ?」

「銀1、鉄15、それ以上はまからないよ?」

「わかった、それでいいよ」


 グランはそう言うと銀貨1枚と鉄貨15枚を店主に渡す。


「ありがとよ!、娘さんかい?大事にしてやんなよ?」


 店主は良い商売ができたと口が軽くなったのか、商売相手のプレゼント先を褒めるようにリップサービスを加えてくれる。


「娘……か、そうだな、そんなもだ」

『あ、ありがとうございます!グレン!……あれ?そう言えば兵舎で銅貨を?」

「い!いたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 唐突に後ろから大きい声がしてびっくりして振り返ると、そこには見知った顔が私達を指さして叫んでる。

 カランラック商会のナバルさんだ。


「よかった!おい!頼む!昨日持ち込んできたく……アレを全部卸してくれ!」


 駆け寄ってきたナバルさんは私達の襟首を掴むと必死の形相で詰め寄ってきた。


「な、なんですか?……蜂蜜はもう無いですよ?」

「ちがう!そっちも欲しいがそれじゃない、それの前に出したやつだ!」

「え?あれはざっウグ」

「ま、まて!」


 雑草じゃなかったんですか?ってグレンが言おうとするのを口を押えてナバルさんは左右を見渡し、何もないと安心して手を放して話しを続ける。


「す、すまない、アレの話は商会うちに来てからで、たのむ!」

『えええ?!何があったんですか?グランどうしましょう?」

『付いて行くしかないだろうな……これ以上騒がれるのも面倒だし』


 襟首を掴むナバルさんの手を右手で引っ張り放してから、グレンは軽く頷いた。


「わかった、行くから落ち着いてくれ!」

「そ、そうか!助かる!さぁ行こう!」


 ナバルさんはそう言い終わるやいなや踵を返して歩き出した。

 私達がついてくると微塵も疑ってないのは単純じゃないだろうか?そう思ってしまいながらも、グレンがついて行く事を止めない私もあまいかもしれません。


『あ!でもその前にその服着ていいですか……』


――――――――――

こんばんわ猫電話ねこてるです!

レスティの服……別に忘れてませんでしたよ!本当です!

それにしても、ねこさん影薄くて書き忘れそうになります。

まぁ、そもそもあまり話しに関わらせる気は無いんですけどね……。


◇次回 第19話 価値


貨幣の価値ってその信用度によりますよね?例えばその基本素材である金とか銀の含有量もそうですし、発行してる国などの信用度もそうです。

本当に経済って物語りの中に組み込むのは難しいです。

そもそも、現実の経済についてもまったく理解できてないし!出来てるなら多分今頃金持ちです!

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