学校一落ちこぼれの俺が盾を召喚するだけのスキルで現代最強のダンジョン探索者に成り上がるまで
蒼唯まる
第1話 探索者養成学校の落第生
手にしていた剣の刀身が甲高い音と共に根本から砕け散った。
瞬間、痺れた右手から折れた剣がすり抜けるようにして落ちる。
左手でホルスターに収められたハンドガンに手を伸ばそうとして、止める。
抜いたところでとっくに残弾が底を突いていたからだ。
薄闇に包まれたダンジョンのボスフロア。
眼前に対峙するは巨大な岩人形——ゴーレムの体にはただ一つの傷もなく、ここからの勝ち筋は皆無に等しい。
だが、逃げようにも出入り口が塞がれているせいで、戦うしか生き延びる手段が残されていないのが現状だった。
ゴーレムが反撃に両腕を振り上げた。
今から回避は……間に合いそうにない。
止むを得ず、攻撃のタイミングに合わせてスキルを発動させる。
「っ——『スクトゥム』!!」
手元に生み出されたのは、水晶細工のような透明な盾。
身の丈を超える大きさで大型バイク並みの超重量を誇る分厚い盾だ。
生成の代償に魔力の大半をごっそり持っていかれて全身の力が抜けかけるも、そいつを体全体で支えてゴーレムの一撃を真っ向から受け止める。
「ぐっ……!!」
しかし、あっさりと押し合いに負けてしまう。
振り下ろされたゴーレムの腕と盾が衝突した瞬間、俺はその場に叩きつけられるようにして倒された挙句、自身で作り出した盾の下敷きになってしまう。
「が、は!」
地面に背中を強打し、肺に溜まっていた空気が強制的に吐き出される。
けれど、すぐに呼吸を整えて咄嗟に盾を持ち上げようと力を振り絞るもびくりともしない。
盾が重過ぎるのと単純に俺の身体強化の練度が足りないせいだ。
このままでは自分の盾に押し潰されかねない。
仕方なく生成した盾を破棄した直後——視界一面を覆ったのは岩塊。
ゴーレムが追撃を仕掛けようと俺に飛びかかってきていた。
そして、そのまま俺は成す術なく全身を押し潰された。
* * *
今から遡ること数十年。
突如として世界各地にダンジョンが出現し、魔物や異能といったこれまで空想上の存在だったものが現実を侵食したことで世界は大混乱に陥った。
勿論、日本も例外ではなかったが、それももう昔の話。
度重なる法整備と多くの人間の尽力によりダンジョンは日常の一部と化していた。
結果、ダンジョンに潜って中にある資源を回収することを専門とした”探索者”が立派な職業の一つとして認知されるようになり、少ないながらも探索者を養成することを目的とした教育機関も設立されるようになった。
俺が通う
当初掲げた志とは対照的に、成績は最底辺を彷徨っていた。
「……やっぱ今回も最下位だったか」
廊下に張り出された今日の訓練結果を確認して、俺は小さな嘆息と共にがっくしと肩を落とした。
入学当初から見慣れた光景ではあるが、やはりこんな感じに目に見える形で結果を突きつけられると流石に堪えるというものだ。
とはいえ、残念ながら当然の結果ではある。
ダンジョン踏破演習で唯一上層を突破できずに強制帰還になったのは俺だけだし。
そもそも本来であれば、ゴーレムは苦戦するような敵ではないのだ。
しかも学生レベルに強さを調整されているおまけつきだ。
「これでも俺なりには頑張っているつもりなんだけどな……」
努力と結果は必ずしも結びつかない——いや、努力ではどうにもならないこともあるということか。
どうやら俺には、自分が想像していたよりもずっと探索者の才能が無いらしい。
正直なところ、なんで俺がこの学校——厳密には探索者を育成する迷宮探索科——に合格できたのか謎なくらいだ。
他でもない俺自身そう思っているのだから、周囲からの評判はもっと酷い。
ふと視線を感じて周囲を一瞥すれば、近くにいた生徒たちから侮蔑と嘲笑がたっぷりと籠められた眼差しを向けられていた。
こっちに関してももう慣れっこだが、だからといって何も感じないわけではない。
堪らず再びため息を溢してしまう。
——必ずこいつら全員見返してやるからな。
改めて心の中で誓った時だった。
「おやおや〜、そこにいるのは訓練最下位の幸守くんじゃね?」
声を掛けられ振り向けば、三人の男子生徒が立っていた。
白石、発田、中島——クラスこそ違うが同じ迷宮探索科のタメだ。
「……何の用だよ、白石」
「おいおい、そう怖い顔すんなよ。今日の演習でただ一人、普通科の奴でも倒せるようなゴーレム如きに負けた可哀想なお前を慰めようとしただけじゃねえか。剣も銃もダメダメでゴミスキルのお前をよ」
「そうそう。仮想ダンジョンだったから良かったけど、実践だったらあそこでお前死んでたんだしよ。それでしょげてんじゃねえかって心配だったんだよ。自分で召喚した盾に潰されそうにもなってたしな!」
白石と発田がにやにやと目を細める。
完全に俺のことを舐め腐っている。
だからこそ、俺はにっと笑って答える。
「そうか。ありがとな、心配してくれて。でも大丈夫、これくらいでへこたりたりなんかしねえからさ。気持ちだけ受け取っとくよ」
たとえ俺の実力が凡夫以下であっても、探索者を諦める理由にはならない。
探索者になることは俺の夢であり、必ず果たさなきゃならない約束だから。
すると、中島が眉を顰めて乱暴に肩を組んできた。
「——あんま調子乗んなよ、落ちこぼれ」
小さくもドスの利いた声。
「テメエみたいな雑魚が居ると虫唾が走んだよ。さっさと普通科に編入するか自主退学してどっか消えろ。じゃねえと、そろそろガチでテメエを潰すからな」
言い終えるや否や中島は、俺の足を思い切り踏んづけてから自身の教室へと去って行った。
立て続けに白石と発田は「頑張れよ、落ちこぼれ!」高笑いと共に俺の背中を本気でバシバシと叩いてから中島の後を追っていた。
三人の姿が見えなくなったところで、三度目のため息が溢れた。
「……ったく、弱い者イジメをして何が楽しいんやら」
俺如きに構うよりも強い奴と絡んだ方がずっと有意義だろうに。
けどまあ、俺が落ちこぼれなのは紛れもない事実だから早いところどうにかしないとな。
今のままだと留年……下手すりゃ強制退学まっしぐらだし。
「何にせよもっと強くならねえと……」
けれど、どうすればいいのか皆目見当がつかない。
まだ見えずとも刻々とタイムリミットは着実に迫っている。
日増しに焦燥だけが募っていく。
——これが俺の日常だった。
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