第212話
山肌に築かれたライエンベルク城に軍を引き連れ入城する。
城門の内側に入っても、その堅牢さがありありと分かる。しかし、一番目に引くのは農民兵たちの表情だ。
戦意があるわけではない、どんよりとした瞳にこけた頬。
そんな長期間包囲していたわけではないが……食料などが足りていないことが良く分かる。まぁそれもそうか。
野戦以降はライエンベルク城に逃げ込んでいた。
ともすれば逃げ足を早くするために食料などは投げ捨てるしかないし、元よりライエンベルク城で立て籠もる予定もないとすれば食料の備蓄も少なかっただろう。
数少ない食料の備蓄も貴族や騎士に優先されたはずだ。
「エーリッヒ」
「はっ」
俺は右後ろに控えていたエーリッヒに振り返る。
「爺に連絡して少しでも多くの食糧をここ、ライエンベルク城に運び込むように伝えてくれ」
「畏まりました」
エーリッヒは一つ頷くと、隊列から外れ伝令と思しき兵たちに指示を出す。
ここで農民兵たちを解散させることもできる。しかし、このような状況で放り出すことはできない。
村まで無事に帰れるか怪しいし、飢えとは何よりも辛いものだ。
カスターレン伯爵が無茶苦茶をしていたはずだから、民心は離れているだろう。そこで、俺が食料を支援することで民心をより確実に手に入れようという打算もある。
まぁかなりの数の農民兵だ。
彼らを養うにはそれなりの食糧が必要になって来るため、物資運搬を担うヘルベルト……そして、公爵領で物資を取り仕切っているニコライには負担をかけるだろうな……。申し訳なく思っている。
「バルティア公爵様、こちらへ」
「あぁ」
俺は降伏した貴族の一人の案内に従い、中央に聳える城へと入る。
城壁の上や城門の内側には農民兵が数多くいたが、城の内部には農民兵がいないようで、人の気配は感じられない。
ただ、大理石を叩く靴の音が良く響く。
内装は……豪華絢爛かと思っていたが、意外と質素だ。
しかし、ソレも当然か。この城は普段から暮らすわけでもないし、貴族としての権威を示すためのものじゃない。戦時を見据えた城だからこそ、内装は質素なものとなっているのだろう。
数少ない装飾と言えば、壁に掛けられたカスターレン伯爵家の旗ぐらいだろうか。
そう言えば、旗も交換して公爵家の旗を掲げなければな。
勝利をアピールするのもあるが、付近の領民たちに支配者が変わったことを認識させるためにも必要だ。
まぁ、しかし今はそれは置いといて。
「少し、落ち着ける場所まで案内を頼む」
「はっ、それではこちらへ」
少し腰を落ち着けたいと思っていた。
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