出涸らし令息が姉の身代わりで勇者学院に登校したら男バレして弄ばれる話。

ナガワ ヒイロ

第1話 出涸らし令息、姉が失踪する





 どうしてこうなった……。



「ちょっと、何ボーッとしてんのよ。相変わらずどんくさいわね。さっさと始めなさいよ」


「ん。早くお腹の奥がじんじん疼いて気持ちよくなるやつ、して」


「ちょ、言い方!! ただのマッサージよ!! それ以上のことしたら許さないから!!」



 誰もいない静かな夕暮れ時の教室。


 一糸まとわず柔肌を晒す少女たちは頬を赤らめながら言った。


 彼女たちは勇者候補。


 勇者学院に通い、いずれ復活する魔王と戦うために力を得ようと日々努力している、未来の勇者たち。


 対する俺は剣も魔法もダメダメな無能令息。


 あまりにも場違いすぎる俺が彼女たちの柔肌に触れてマッサージしたり、時には激しく撫で回したりするのだ。


 全く意味が分からない。



「んっ♡ ほんと嫌らしい手つき。まあ、魔力の循環が良くなるから、別にいいけど」


「フィオ♡ 次はおっぱいもマッサージして♡」



 でも役得なのは間違いない。


 姉に言われて嫌々ながら習得したマッサージが思わぬところで活躍したと思っておこう。


 そう思って、俺は今日もマッサージに勤しむ。



「ん♡ フィオのココも大きいから凝ってる♡ 私が特別なマッサージ、してあげる♡」


「い、いや、あの、マッサージはともかく、そういうことは……」


「む、残念。今日は安全な日だから、いっぱい気持ちいいお返ししてあげようと思ったのに」


「よろしくお願いします」


「ちょ、二人とも何するつもりなのよ!? 破廉恥なのは禁止よ!!」



 ああ、ダメだ。今日も誘惑に勝てなかった。


 俺は今日に至るまでの長いようで短い、怒涛の日々を思い出すのであった。













「フィナ姉さんが、いなくなった!?」


「……そうだ」



 俺の名前はフィオ・アスティン。十三歳。


 エイデン王国の辺境一帯を治めるアスティン辺境伯家の長男である。


 まあ、長男と言っても爵位継承権など無い。


 何故なら俺は巷で噂の『剣も魔法もダメダメな出涸らし令息』だから。


 貴族という本来は民たちを守るべき身分でありながら、あまりにも無能すぎてアスティン領どころか王都にまで噂が届く始末。


 貴族って世知辛い。


 でも俺には家事以外剣も魔法も何でもできる万能で最強の姉がいる。


 その名もフィナ・アスティン。俺の双子の姉だ。


 世界中から才ある若者たちを集めて未来の勇者を育成する勇者学院。

 その入学試験にわずか十三歳で合格した、誰もが認める正真正銘の天才である。


 しかし、その姉が失踪したと言う。



「ど、どうして!? 誘拐ですか!? いや、でも、あの怪物みたいな姉さんが拐われるなんて」


「落ち着きなさい、フィオ。誘拐ではありません。書き置きがありました。フィナの字で間違いありません」



 そう言って父の隣に立つ母が大きなおっぱいの谷間から一枚の手紙を取り出した。


 何故そこに仕舞っていたのだろうか。


 細かい疑問はすぐ思考の外に追いやって、俺は姉の残した手紙を読む。



『修行の旅に出ます。三年は帰りません。勇者学院には愚弟を行かせてやってください。私と同じ顔なのでスカート履かせて化粧したらバレないと思います』



 俺はそっと手紙を閉じた。


 可能なら何も見なかったことにして手紙を燃やしてしまいたい。



「……フィオ」


「嫌です、父上」


「フィオ。お前の父のわがままを聞いてくれ」


「いや、絶対に嫌です!!」



 俺が必死に叫ぶと同時に、父は恥も外聞も捨ててその場で土下座した。



「頼むよ、我が息子ぉ!! もうお父さん、色んな人に自慢しちゃったんだよぉ!! 娘があの勇者学院に一発で余裕の合格しちゃったって!! 第一王女が合格したからってマウント取ってきた国王陛下にも『いやまあ、うちの娘も普通に合格しましたけどね(笑)』とか言っちゃったんだよお!!」


「陛下相手に何してんですか!? 馬鹿なんですか!?」



 自分の父ながら情けない。


 いや、俺は剣も魔法もダメダメだし、だからこそと言うべきか。


 稀代の傑物たる姉は誰に似ているのだろうか。



「旦那様がくだらない見栄を張って首を苦しめていることはどうでもいいですが、これはフィオのためでもあるのですよ」



 と、そこで母がわんわん泣き叫ぶ父を無視して会話に入ってきた。


 俺のため、だって?



「フィオ。貴方は剣も魔法もダメダメです」


「うっ、わ、分かってますよぉ」


「ならばこそ、勇者学院という世界中の天才たちが集まる場所に行って知り、己を見直すのです。そうすれば、貴方も気付くはず。貴方の持つ本当の力というものを。何より――」



 母がおっぱいの谷間から手のひらサイズの小さな魔導具を取り出した。


 あれはたしか、景色を記録するカメラだ。


 母はダメダメな父の妻として長らくアスティン辺境伯領を支えてきたが、一流の魔導具師としての一面もある。


 カメラは母の代表作と言っていい魔導具だ。


 母がニヤニヤしながら嬉しそうにカメラを構えて俺に向けている。



「可愛い息子の女装写真とか、ごちそうさまでーす!!」



 本当に姉は誰に似ているのだろうか。


 もしかして姉は拾い子で、アスティン家の誰とも血が繋がっていないのではないか。


 いやまあ、姉は母に似てかなりの美人だ。


 父譲りの黒髪と母譲りの黄金の瞳は疑いようがないくらい血縁を感じさせる。


 でも、そう思わせるくらいには姉は天才だった。



「というわけでフィオ。貴方はフィナになりすまして勇者学院に通いなさい」


「何がというわけで、ですか!! ダメでしょう!? 普通にダメでしょう!?」


「ご安心なさい。実は勇者学院の理事長とは古い友人なのです。今回の事情を話したら『面白そうだからオッケー』との返事をもらいました」


「いいのか勇者学院!? そんな奴がトップでいいのか!? というか古い友人!?」



 勇者学院は世界中の天才が集まる場所だ。


 それもただの天才ではなく、努力できる真の天才たちが集まる。


 そこら辺の大人より何でもできる彼らを束ねるのは、そう容易ではない。

 しかし、それを容易くできてしまうのが勇者学院の理事長なのだ。


 というのも、勇者学院の理事長は数百年前に魔王を討伐した勇者一行の魔法使いだったらしい。


 その理事長と知り合いとか、母は何者なのか。



「と、とにかく嫌ですよ!! 女装とか冗談じゃない!! 出涸らし令息にも令息として、男としてのプライドがあるんです!!」


「……では、仕方ありませんね」



 必死の訴えが通じたのか、母は申し訳なさそうに俯いて、またおっぱいの谷間から何かを取り出した。



「これを。フィナが貴方に残した書き置きです」


「え? 俺宛てですか?」


「はい。中をご覧なさい」



 俺は手紙を受け取った。


 いったい姉が俺に何を書き残したのか、少し気になったのだ。



『フィオへ。勇者学院に行かなかったら修行から帰ってきた時にシバキます。覚悟しなさい』



 俺はそっと手紙を閉じて、何も見なかったことにした。


 そうだ。姉はそういう奴だった。


 剣も魔法も天才だが、傍若無人で人のことをちっとも考えない。

 言うことを聞かなかったら暴力を振るわれたことだって一度や二度ではない。


 お陰で俺は姉の命令に逆らえない身体になってしまったのだ。



「――っ、ああもう!! 姉さんの馬鹿!! アホ!! どうなっても知らないぞ!!」


「やったわ、あなた!! フィオの女装写真が撮れるわ!!」


「ありがとう!! 本当にありがとう!! お陰で国王にマウント取り返されなくて済む!!」



 このロクデナシ共め!!


 俺はこの場にいない姉への怨み節を述べながら、了承した。

 こうして俺は、勇者学院に通う羽目になったのであった。


 






―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「おっぱいの谷間から道具を取り出す女性キャラが好き」


フ「分からなくもない」



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