前世生贄王女だったのに、今世ではとびきりの溺愛が待っていました ~片翼って生贄の隠語でしたよね?~

あさぎかな@電子書籍/コミカライズ決定

第1話 神様は残酷です

 次に生まれ変わるなら、平凡で、平和な世界で幸せに生きたい。


 私の前世は花嫁と言う名の生贄だった。

 《比翼連理の片翼》と大層な称号と共に四大種族の一角、天狐族の《高魔力保持者》の伴侶生贄として選ばれた。

 私は復讐のために自ら命を絶つことを選んだ。非力な人族の最期の抵抗。もう関わりたくない。そう心底から思っているのに、毎日のように夢を見る。


 私が飛び降りた後の夢。

 ブリジット前世の私を抱き抱えて涙する、あの人の姿を──。


『……ブリジット、愛している。誰よりも、愛しているよ』


 嘘だ。

 そんなことあるはずが無いのに、彼は泣いていた。まるで本当に愛していたかのように私を抱きしめて、後悔を口にする。

 私の名前を呼び、愛を囁く。

 そんな事実はない。


『……君は私を許さなく良い。それでも次は君が幸福であるために、私の全てを掛けて、君を見守ることを……どうか許してくれ』


 そんなことは望んでいない。

 ただ後悔して欲しいだけ。失って絶望すればいいと思った。それ以上の償いなんていらない。少しでも苦しめばいい、でなきゃ復讐にならないから……。

 それだけ。



 ***



しずく、学校に遅れるわよ! いい加減起きなさい!」

「……はぁい」


 またあの夢……。

 前世の記憶を覚えているなんて最悪だわ。

 忘れていたほうが幸せだったかも。ううん、こうなったら前向きに捉えて前世の後悔を今世ではしないようにしよう。

 

 縁は巡るけれど、異世界に転生した私には関係ない。

 なにせ戦争のない豊かで、平和な日本と言う国に転生したのだ。もうあの世界でのことを引きずる必要もない。美味しいご飯、安価に手に入るスイーツの数々! 控えめに言って最高!

 この世界に四大種族も、他の種族も存在しない。あの彫刻のように美しい顔も、白銀の髪を見ることがないのだ。

 悪夢を消し去るためにも、今日はクレープの買い食いをしよう! そうしよう!


「行ってきます!」


 意気揚々と家を出て学校に向かった。前世など私には関係ない。

 そう思っていたのに、運命は残酷にも苛烈な軌道修正を望んだようだ。

 信号が青になって横断歩道を歩いた瞬間、足場が輝き──気づけば見知らぬ空間に、転移していた。


「……は?」

「聖女召喚が成功しましたぞ!」

「これでこの都市も救われる!」

「──ッ!?」

 

 どうして異世界に逆戻りしているの!? どういうこと神様!? しかもどう見ても私ともう一人の女子生徒がいて、絵面的に私巻き込まれた系ですよね!?


「……さ、最悪だわ」

「あの……私が聖女?」

「その通りでございます!」

「…………」


 何より最悪なのは学年一……いや学校一性格の悪い女子、高無たかなし美玲みれいが聖女という評価だ。この世界は改めてクソ最悪なのだと実感する。

 彼女は聖女じゃなくて、悪女です。まあ、私のことなんて完全無視ですか、オマケというか、巻き込まれ召喚されたクラスメイトAですものね。


 今世では真っ黒な髪に、背丈は百六十センチ前後、顔もフツーのフツーオブフツー。名前だけは少し変わっているぐらいの、青春真っ只中の高校生だったのに!

 異世界転移とか、ほんと勘弁して欲しい。お家に帰りたい。クレープ……。


 前世とは違う異世界であってほしいけれど……あの紋章、たしかクレパルティ大国から西の森の奥にあるエルフの紋章っぽい。よく見たら耳とか尖っているし、顔面偏差値高いわ。ううん、まだ似た世界線の可能性もある!

 SF展開を期待! パラレルワールドとかでもこの際、文句言わないから!!

 とりあえず元の世界に戻して貰えるか、放り出されるか分からないけれど、声をかけてみよう。


「あのー、私は人違いだったようなので、元の世界に戻して貰えませんか?」

「ん? ああ。もう一人居たのか。魔力が感じられなかったから気付かなかった」


 普通の人間は魔力なんてないわよ!

 深緑色の髪に、翡翠色の瞳。綺麗な顔をしているけれど、向けられる眼差しは無機質でゾッとするほど冷たい。エルフ族は人族を嫌悪している種族だったっけ。彼らは風と緑から派生した種族で、人族を野蛮で炎を飼い慣らす怪物だと認識していたような? 


 うん、元々人族に良い印象はなかった。人族の印象最悪な場所に転移するなって……早くも死亡フラグだわ。いや四大種族のところに出現じゃなかっただけマシかも?


 異世界転移は高位魔法。

 そんな大それた術式を私一人のために使うわけ……ないわよね。

 ……仮に、うん仮に前世と同じ世界だったとして、西の森フェアリーロズから歩いて七日でクレパルティ大国はあったはず。転生してすでに十六年以上経っているけれど、大国がどうなったのか……あの日、祖国は燃えてしまったけれど、生き残りがいるかもしれない。希望は薄いけれど、元の世界に戻れないのなら──。

 この世界で生きていくしかない……。クレープもっと食べていけばよかったかも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る