第四章:「過去からの訪問者」

 東京の夏の夜は、蒸し暑さと官能が入り混じっていた。503号室では、美菜、佳代子、沙織、そして真琴の四人が、またしても密やかな逢瀬を重ねていた。


 美菜のシルクのネグリジェが、月明かりに照らされて艶めかしく輝いている。その下から覗く肌は、まるで上質な白磁のように滑らかだった。佳代子は、ラ・ペルラの黒のランジェリー姿で、その豊満な曲線美を惜しげもなく披露していた。沙織は、アゲハ蝶のように鮮やかな赤のベビードールを身にまとい、その大胆な色使いが彼女の肌を一層白く見せていた。そして真琴は、シャネルの香水の香りを纏いながら、ただ一枚のシルクのシーツに身を包んでいた。


 四人の吐息が部屋中に満ちている。美菜の長い黒髪が、真琴の白い肌の上で蛇のように蠢く。佳代子の唇が、沙織の首筋を優しく撫でる。その光景は、まるでルネサンス期の絵画のように美しかった。


 真琴の指が、美菜の背中を這う。その感触に、美菜は小さく震える。


「美菜さん、あなた……本当に綺麗よ……」


 真琴の囁きは、低く甘く、蜜のようだった。美菜は答える代わりに、真琴の鎖骨に唇を押し付ける。その動きに、真琴は小さく喘ぐ。


 佳代子は沙織の胸元に顔を埋めていた。沙織の柔らかな膨らみが、佳代子の頬を包む。佳代子の舌が、沙織の敏感な部分を愛撫する。


「あぁ……佳代子……」


 沙織の声が切なく響く。その声に応えるように、佳代子の動きが激しくなる。


このシーンは過激な表現を含みます。


 月光が窓から差し込み、四人の肌を銀色に染める。汗で濡れた体が、淫らに絡み合う。


 美菜の長い黒髪が、真琴の白い肌の上で蛇のように蠢く。真琴は美菜の髪の香りを深く吸い込む。シャンプーの甘い香りと美菜本来の体臭が混ざり合い、真琴の欲情を掻き立てる。


 佳代子の唇が沙織の首筋を這う。舌先で味わう沙織の肌は、ほのかな塩味がして、そこに香水の芳醇な香りが混ざる。沙織は佳代子の唇の感触に震え、小さな喘ぎ声を漏らす。


「佳代子……そこ……」


 沙織の声は蜜のように甘く、切なさに満ちている。佳代子はその声に応え、さらに情熱的に愛撫を続ける。


 真琴の手が美菜の豊満な胸を包み込む。指先で乳首をゆっくりと転がすと、美菜は背中を反らし、快感に身を任せる。


「美菜さん、あなたの反応、本当に可愛いわ……」


 真琴の囁きは低く、官能的だ。その言葉に、美菜の頬が赤く染まる。


 沙織の指が佳代子の秘所を愛撫する。湿った音が静寂を破り、佳代子は思わず声を漏らす。その声に反応するように、美菜と真琴の動きも激しくなる。


 四人の吐息が重なり、喘ぎ声が部屋中に響く。汗の香りと性の匂いが混ざり合い、官能的な空気が漂う。


 美菜は真琴の瞳を覗き込む。そこには深い闇と燃えるような情熱が宿っている。美菜は自分がその闇に飲み込まれていくのを感じ、背筋に快感の波が走る。


 佳代子と沙織の唇が重なり、激しく求め合う。唇と唇がぶつかる音が、夜の静寂を破る。


 真琴の指が美菜の最も敏感な部分を巧みに愛撫する。美菜は思わず大きな声を上げ、その声に反応するように佳代子と沙織の動きも激しさを増す。


 四人の体が波打つように動き、互いの快感を高め合う。それはまるで一つの生き物のよう。四つの心臓の鼓動が重なり、一つのリズムを刻む。


 そんな彼女たちの甘美な時間を、突如として鋭いインターホンの音が破った。


「真琴! 真琴、いるんでしょ? 開けて!」


 甲高い女性の声が、インターホン越しに響く。真琴の体が一瞬凍りついたのを、美菜は敏感に感じ取った。


「まさか……」


 真琴の呟きに、不安が滲んでいる。彼女は慌てて立ち上がり、ローブを羽織った。


「真琴、どうしたの?」佳代子が心配そうに尋ねる。


「私の……元恋人よ」


 その言葉に、部屋の空気が一変した。美菜、佳代子、沙織の三人は、互いに顔を見合わせる。そこには、驚きと不安、そして僅かな嫉妬の色が浮かんでいた。


 真琴は深呼吸をすると、ゆっくりとドアに向かった。ドアを開けると、そこには一人の女性が立っていた。


 彼女の名は杞紗。真琴とは対照的な、小柄でボーイッシュな雰囲気の女性だった。しかし、その目には鋭い光が宿っている。アルマーニのパンツスーツを身にまとい、短く刈り込んだ髪は、彼女の知的な雰囲気を引き立てていた。


「久しぶりね、真琴」


 緊張が張り詰めた空気が、503号室を支配していた。杞紗の姿を目にした瞬間、真琴の表情が一瞬にして凍りついた。その変化を、美菜、佳代子、沙織の三人も見逃さなかった。


 杞紗の目には、燃えるような怒りと深い悲しみが混ざり合っていた。その複雑な感情が、彼女の声に微かな震えをもたらしている。彼女の視線が、真琴の背後に控える三人の女性たちへと向けられた時、その目には鋭い光が宿った。


「あら、お客さま? それとも……新しい恋人たち?」


 杞紗の言葉には、刺すような皮肉が込められていた。その口調は軽やかでありながら、その裏には激しい嫉妬と憎しみが潜んでいるのが感じ取れた。彼女の唇の端に浮かぶ笑みは、まるで刃物のように鋭かった。


 真琴は、必死に動揺を隠そうとしていた。しかし、その努力も空しく、彼女の声には僅かだが確かな震えが混じっていた。真琴の瞳には、恐れと罪悪感、そして悲しみが浮かんでいる。過去の亡霊に直面した彼女の心は、激しく揺れ動いていた。


「杞紗、ここで何をするつもり?」


 真琴の問いかけには、恐れと同時に、かすかな挑戦的な響きも含まれていた。彼女は自分の新しい生活を守りたいという思いと、過去の恋人への未練の間で引き裂かれているようだった。


 杞紗の返答は、まるで運命の宣告のように響いた。


「あなたを取り戻しに来たのよ、真琴」


 その言葉には、決意と執着が滲んでいた。杞紗の目は真琴だけを見つめ、その視線には過去の幸せな日々の記憶と、それを取り戻したいという強い願望が込められていた。


 部屋の中の空気が、一瞬にして凍りついたかのようだった。美菜、佳代子、沙織の三人は、言葉を失ったまま、この予期せぬ訪問者と真琴のやり取りを見守っていた。彼女たちの目には、驚きと不安、そして自分たちの関係の脆さに気づいた時の恐れが浮かんでいた。


 真琴と杞紗の間に流れる緊張は、まるで目に見えるかのようだった。二人の過去と現在、そして未来が、この瞬間にぶつかり合っている。そして、その衝突の余波が、美菜、佳代子、沙織の三人にも及ぼうとしていた。


 真琴の過去が、今まさに彼女たちの前に姿を現した。それは、彼女たちの関係に大きな波紋を投げかけることになる。社会的立場を失うかもしれないという恐怖と、真琴を手放したくないという欲望。その狭間で、四人はそれぞれの選択を迫られることになる。


 部屋の空気は、張り詰めた緊張に満ちていた。そして、これから始まる嵐の予感に、誰もが息を呑んでいた。

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