初めての成功と酔いの代償

美咲は田中の体での仕事に少しずつ慣れてきた。


特に、最近のプレゼンテーションで大成功を収めたことで、自信を深めていた。


同僚たちもその努力を認めており、彼女の活躍を祝うために飲み会を開くことになった。


「よくやったね、美咲さん!」同僚の一人が乾杯を提案した。


美咲は笑顔でそれに応じ、グラスを持ち上げた。お酒を飲んだことがない美咲だったが、今日は祝いの席ということで少しだけ飲んでみようと決心していた。


飲み会が始まり、美咲は最初は控えめにお酒を楽しんでいた。


しかし、グラスが空くと次々と注がれるお酒に、次第に酔いが回ってきた。


普段の自分とは違う体での酔い方に戸惑いながらも、場の雰囲気に溶け込むために頑張っていた。


「どうしたんですか?顔色が悪いですよ。」同僚が心配そうに声をかけたが、美咲はただふわふわとした感覚に身を任せていた。


やがて、彼女の目の前の景色がぼんやりとし、体のふらつきが増してきた。


「もう、帰ろうかな…」と美咲は呟きながら、立ち上がろうとしたが、足元がふらつきまともに歩けない。


しばらくして、彼女は席から離れ、店の外へとふらふらと歩き始めた。


その頃、田中は美咲の体での部活を終え、帰宅途中だった。


彼は美咲としての生活に少しずつ慣れ、普段とは異なる日常の中での楽しさを感じ始めていた。


「ふぅ、今日もいい一日だったな。」田中は楽しそうに独り言を言いながら歩いていた。


彼が街を歩いていると、ふらふらとした歩き方をしている美咲の姿が目に入った。


「ん?あれは…美咲さん?」田中は驚きながら近づき、彼女が顔を伏せて歩いているのを見つけた。


美咲が酔い潰れている様子に気づいた田中は、急いで駆け寄り、「大丈夫ですか?」と声をかけた。


美咲はかすれた声で「…田中さん?」と答え、ようやく田中の顔を見上げた。その顔には困惑と苦しみが混じっていた。


「ここで何をしているんですか?酔っているみたいですね。」田中は優しく言いながら、美咲を支えた。


彼の肩に寄りかかりながら、ふらふらと歩く美咲は、「お酒、飲みすぎちゃった…」とぼんやりと答えた。


「どうにかして、家まで送りますよ。」田中はそう言いながら、美咲をしっかりと支え、ゆっくりと歩き始めた。


美咲は無力に体を預けながら、田中の助けを借りて家路を辿った。


田中は、美咲の体での彼女の家までの道のりを慎重に歩いた。


途中、たびたび美咲が足元をよろけることがありながらも、田中は彼女を支え続けた。


「田中さん、ありがとう…」美咲はふと感謝の気持ちを口にした。「酔っ払って…迷惑をかけてしまった。」


「いいんですよ。」田中は微笑みながら答えた。「私も、こうして手助けできることに意味があると思っています。」


ようやく美咲の家に到着すると、田中は彼女を部屋の中に無事に運び入れ、ベッドに横たえることができた。


「ゆっくり休んでください。私の体はお酒に弱いんですよね。」と田中はやさしく声をかけた。


美咲は感謝の気持ちを込めて「本当にありがとう…田中さん。」と呟きながら、眠りについた。


美咲は酔いが回った状態で、徐々に意識がぼんやりとしながらも、自分の体に対する新たな感覚を覚えていた。


田中の親切さに触れるたびに、どこか心が和らいでいくのを感じていた。


「こんなに優しくしてもらうのは初めて…」と美咲は心の中でつぶやいた。


彼女は自分の体で感じる、柔らかな布団や温かい肌の感触に次第に心地よさを感じていた。


幸い、妻は出張で家を空けていることを確認できたので、田中は部屋の片付けをしていた。


美咲は意識が朦朧としながらも、自分の体の感覚に注意を向け始めた。「これは…私の体なんだ…」と、ぼんやりとした思考の中で、美咲は自分の体に対する新たな認識を持つようになっていた。


田中が部屋を出て、別の用事を済ませに行ったとき、美咲は一人でベッドの中に残されていた。彼女はそのまま心地よい眠気に誘われ、ふとした瞬間に自分の体が魅力的に感じられることに気づいた。


「この体、こんなに心地いいんだ…」と、美咲は眠りに落ちる前に感じた感覚を心に刻みながら、意識が徐々に遠のいていった。


しばらくして、田中が部屋に戻ってきた。


美咲が眠り込んでいる様子を見て、彼は優しく布団をかけ直し、彼女の体が快適に眠れるように配慮した。


「お疲れさま、美咲さん。」田中はつぶやきながら、彼女の横に座り、彼女が安らかに眠れるように見守っていた。


田中が少し離れた場所に座っていたが、美咲が時折うなされながらも、眠りが深くなっていく様子を見て、彼は彼女を心配しながらも、ここまで介抱してきた自分に満足感を感じていた。


しかし、何かしらの運命のいたずらか、田中もそのまま床に座り込んでしまった。いつの間にか、彼はそのままうとうとと眠ってしまい、気づいたときには美咲と一緒のベッドに横たわっていた。


美咲の体に触れながら、田中はそのまま眠りに落ちる感覚に包まれた。


二人は別々の体であるにもかかわらず、同じ空間で眠ることにより、互いの存在を身近に感じていた。眠っている間に、美咲の体は田中の体の温もりに包まれ、穏やかな気持ちで包まれていた。

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