美咲の混乱

美咲は、朝の目覚まし時計の音で目を覚ました。


いつものように目をこすりながら、彼女はベッドから起き上がろうとしたが、何か違和感を感じた。


体の感覚がいつもと違い、重く感じられる。


布団から抜け出すために力を入れようとすると、まるで普段の体の動きが通じないように感じた。


焦りながらも、鏡を見に行くことにした。


彼女が鏡の前に立つと、自分の顔が映っていないことに気づいた。


鏡に映っているのは、中年男性の顔だった。髪は短く、パジャマに身を包んだ見知らぬ男性が映っていた。


美咲は驚きと混乱に包まれ、手で顔を叩きながら、自分が見間違えているのではないかと確認した。


しかし、どれだけ自分の目を疑っても、鏡の中の男性の姿は変わらなかった。


「一体、どういうことなの…?」美咲は声を出してつぶやき、息を呑みながら思考を巡らせた。


この体の感覚や動きに慣れるため、彼女はゆっくりと試行錯誤を始める。


下の階から田中の妻に呼ばれ、仕事に行かなければいけないと理解する。


しかし、男性用の下着には嫌悪感があり、なかなか着替える勇気が湧かなかった。


下着の中の感じたことのない感覚に、嫌悪感が更に高まるが、今はそんなことを考えている状況ではない。


スーツの着こなしやタイの結び方に苦戦しながらも、どうにか形にはするが、その動作の不器用さが自分自身にイライラを募らせた。


出勤時間が迫る中、美咲は慌てて家を出た。


電車に乗り込むと、周囲の目線が気になり、さらに不安が募る。


駅のホームで待つ間、彼女は手元でスーツを整えながら、社会人としての振る舞いに思いを馳せたが、動きがぎこちなく、心は焦るばかりだった。


社員証を頼りに会社に到着すると、美咲は緊張しながらも、何とかデスクに向かう。


しかし、同僚たちの期待に応えられず、最初の会議での発言や資料の確認で失敗を重ねる。


彼女が仕事の内容を理解するのに時間がかかり、同僚たちはその様子を不安げに見守っていた。


美咲は「これではいけない…」と心の中で自分を叱咤し、どうにか状況を改善しようと努力する。


「田中さん、大丈夫ですか?」と心配そうに声をかける同僚に対して、「ええ、大丈夫です。ちょっと体調が…」と無理に笑顔を作りながら答える美咲。


しかし、その言葉に説得力がなく、同僚たちは彼女の不安な様子に気づいていた。


仕事が終わる頃には、美咲の体力は限界に達し、心も疲れ果てていた。


「これが…社会人の生活なのか」と彼女は感じつつも、帰路につく足取りは重かった。


帰宅後、彼女は「この体でどうすればよいのか、まだまだ学ばなければ」と自分に言い聞かせながら、一日の振り返りを行った。

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