不義の子と蔑まれた研磨姫は実は竜王殿下のおぼえがめでたい
千賀春里
第1章 不義の子と竜眼石
第1話
キーっと金属の擦れ合う音が騒がしく響く中、桜詩兎は汚れた布を片手に目の前の大きな石と格闘していた。
ここは竜宝国の王都北部にある鉱山である。
鉱山入口にある平屋の工場には鉱山から採掘された鉱石が鉱車によって運び込まれ、使用人達によって出荷に向けて作業が行われている。
詩兎達が磨いているのは竜眼石という特殊な石の原石である。
この原石は採掘された直後は黒色だが、磨くことで本来の美しい輝きを放ち、使うべき者が使えば、石に宿った特殊な力を使うことができるのだ。
今、詩兎が磨いているのは鶏くらいの大きさでゴツゴツした石は燃え上がる炎のような赤色をしている。
その炎のような赤い石に付着した黒色の付着物を布や小道具を使って落とす作業を始めて早数時間、高く昇った太陽は半分以上沈んでいる。
机にある籠の中には研磨を待つ石の山が出来上がり、作業の遅れを示しているのだが、この作業で手を抜くことはできない。
「お嬢様、少し休んでは如何です? 身体を壊しますよ」
広く大きな机には詩兎を合わせて六人の研磨師が仕事をしている。
その中で向かいに座って同じ作業をしていた青年が詩兎に声を掛けてきた。
彼が磨いているのは深緑色の石で、大きさは卵ぐらいの大きさの石が手前の籠にいくつも収まっていて、側には使用済みの汚れて真っ黒になった布が無造作に置いてある。
「それはあなたも同じよ、天音。今日はもう切り上げてもいいわ。みんなもよ」
詩兎は同じ机で作業をしている研磨師達に声を掛けると、黙々と作業をしていた研磨師達が手を止めて顔を上げた。
みんなの顔には濃い疲労の色が浮かんでいる。
「お嬢様もお疲れでしょう。天音さんの言う通り、今日はもう作業をお止めになった方がいい」
天音に賛同したのは研磨師の中で一番の古株である六孫だ。
気難しそうな顔をした老人だが、実はとても優しい。
「私は大丈夫よ。そこまで疲れてないわ。それに、元気なうちは作業を進めておかないと」
詩兎は研磨途中の石に視線を落とす。
「その原石の受け渡しは十日後でしょう。既に半分以上終えていらっしゃる。充分間に合いますでしょう」
「うん、それはそうなんだけどね……」
詩兎は六孫の言葉に頷きながらも胸の中にある一抹の不安が常に存在していた。
するとバタバタと建物の廊下を闊歩する音が聞え、嫌な予感が近づいて来る気配がした。
一抹の不安が急激に膨らみ、存在を主張してくる。
そして部屋の扉がバンっと乱暴に開けられた。
「本当にいつ来ても辛気臭いところね」
部屋の扉を乱暴に開け放ち、扇を片手に顔を顰める少女が言った。
「華陽……」
室内を見渡して蔑むような視線を向ける少女の名前は桜華陽、詩兎の義理の妹である。
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