第38話 美少女エイリアンVSエイリアンの指揮官
銃口を左右に振った。
網膜ディスプレイと装甲服の複合センサーによると、敵性反応はない。動体探知機は
ぶよぶよした昆虫の卵のようなものが壁にいくつもへばりついていた。
「
すっと目を細め、私がそう言いながらVICSの繁殖力を呪った。
拡散級はその名の通り、もっとも感染力の高い個体でVICSウイルスを拡散させる。その上こうしてすぐ巣をつくる。けれど、
「そのおかげで博物館の中にとどまってくれていたわけでもあるし、手間が省けて助かったわ」
「どうします、クレーメア1。破壊しておきますか?」
「いえ、先に進みましょう。今すぐ孵化するわけでもないし、もっと優先すべき相手がいるわ」
部下にそう答えると、私は壁を見据えた。そこには、拡散級の卵とは別にもうひとつの熱源が見えていた。
この先の展示エリアにいるね……反応は二〇おそらく歩兵級ステージ3。だとすると、息を合わせて同時に攻めなくちゃこちらに犠牲が出る敵の数ね。
「クレーメア1からクレーメア3へ。準備はいい?」
『こちらクレーメア3、いつでも行けます』
その返答を聞くと、私は通路を折れた。
現代の動物を展示していたエリアを抜けると、そこはより古い時代を生きた動物――マンモスの骨格を展示したエリアだった。そのマンモスにナイフで削り取っている藍色の装甲服が見てとれた。
――
それはあの男のコードネーム。NOXでありながらVICSに連なる敵の指揮官だ。ステージ3の歩兵級に護衛されている。
「撃てッ!」
私が叫んだ直後、正面と側面通路から一気に銃声が響き、完璧な十字砲火が決まった。手前の方にいた歩兵級が銃弾を浴びると、胸に穴を空けて倒れた。その後にいた歩兵級が怒りの咆哮を上げ、反撃してくる。
私は屈んでプラズマ弾を避け、撃ち返す。けれどそこで息を呑んだ。
スワームがいない……! 一体どこへ――
衝撃。視界が揺れる。
「――うッ」
目の前に光の粒子がちらついたかと思うと喉が掴まれ、私の身体は押し出されるようにして持っていかれた。そして浮遊感と窓ガラスが割れる音を耳にすると、博物館の外に出た。
地面が迫る。このままじゃ地面に縫いつけられる。そう理解した瞬間、プラズマ機関銃を捨てて相手の腕を掴み返し、両手を捻って私の喉を掴んでいた手を外すと、身体を捻りつつ装甲服のスラスターを噴かせ、くるりと反転した。そのまま流れるような動きで相手を組み伏せる。
腕を背中に回させて綺麗に関節を極め、相手をうつ伏せにして制圧すると、私は唸るように呟いた。
「また会えたわね、スワーム……」
「わたしは会いたくなかったがね……量子化で奇襲したのに対応する奴には特に会いたくない」
そうよね。さっきの奇襲は身体を光の粒にして瞬時に移動できるスワームの能力によるもの。だから不意を突かれてここまで押し出されたけど、掴めるなら話は別。もう逃さない。
「こんな博物館ばかり襲って何をしてるのかしら?」
「ちょっとした趣味があってね。古代の生物に興味があるんだ」
「嘘よね。本当は何かを探してる。それも地球上にある歴史的な物を」
「ああそうとも……探している。だが貴様らのような『偽物』に教えてやるものか」
「そう。じゃあ話の続きは隔離施設でたっぷり聞いてあげるわ」
偽物って言葉がちょっと引っかかるけど、まぁそれも尋問官に任せればいいわ。
そう私が思った時だった。
「え――」
掴んでいた感覚が消え、スワームの姿も粒子になって散った。
ジュッ! ジュッ!
肩にガラスの杭のようなものが刺さり、急激にシールドゲージが急激に低下する。ステンドガンによる攻撃だ。
掴まれても抜け出せるの……!?
咄嗟にレッグホルスターから拳銃を抜いて構える。スワームは少し離れた位置の壁脇に立っていた。
「このッ!」
数発撃った弾がスワームのシールドに当たって跳ねる。拳銃じゃ効果が薄いけど、怯ませるには十分。このまま距離を詰めて一気に――
「撤収する!
けれどその瞬間、灰色の肉気球がどこからともなく飛び出してきた。その肉気球――撹乱級は煙を吐き出しながら上空へと舞い上がり、煙の壁でスワームを覆い隠した。
「待ちなさい! スワーム……ッ!」
「いずれ偽りの先進種族は駆逐される。その日が来るまでせいぜい震えて過ごすがいい――」
スワームの声が遠ざかる。その声は不思議なことに空気に溶けて消えるように曖昧で、まるでそこにいたはずのものが急にいなくなったような感じだった。
この特殊な煙のせいで熱探知機も動体探知機も機能しない。完全にスワームを見失った。
ぎゅっと拳に力が入る。
スワームは私たち
だけど、どうすれば……私のアーマーって偏光コーティングがされてるから量子化を阻害できるはずなのに、組み敷いてもあっさり逃げられたし……一体どうやって捕まえればいいの……。
「大丈夫ですか? 隊長」
撹乱級の煙が収まってくると、私とスワームが飛び出して割れた窓からフェンリーの黒いフルフェイスヘルメットが覗き込んできた。
「今頃来て薄情ね。私が吹き飛ばされたのに援護してくれないなんて」
「隊長なら大丈夫だって信じてましたから。それに、こっちだって歩兵級の相手が大変だったんですよ? あいつら馬鹿みたいにプラズマ連射するから」
「で、状況は?」
おどけた調子で手振りを見せるフェンリーに私がそう聞くと、
「館内はほぼ制圧。敵の残党は森林エリアに残すのみです。じきに掃討できるでしょう」
「よかった……私の方はスワームに逃げられたけど、今回も被害は最小限に抑えられそうね」
私はそっと息をつき、救援作戦の終結を喜んだ。
けれど確実に犠牲は出た。しかもスワームの思惑も未だにはっきりしない。
ホントに……これからどうなるのかしら……?
一抹の不安を感じながら私は正面広場に戻ったのだった。
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