エイリアンVS生物兵器~銀髪美女エイリアンに助けられたので、今度は自分一人でも生き残れるように鍛えてもらったら世界の危機を救うことに~
第10話 生物兵器系エイリアンから逃げる朱宇たち。彼は無事生還できるか!?
第10話 生物兵器系エイリアンから逃げる朱宇たち。彼は無事生還できるか!?
シャノンが「来い……!」と即座に手を引いてくる。デイビスさんも中央通路を指差し、誘導してくる。
「ここはもうダメだ、二人とも向こうに逃げるぞ!」
「は、はい……ッ!」
「分かった……!」
俺とシャノンは頷くと、散り散りに逃げ始めた他の客をかき分けながら駆け出した。
背後では人々の悲鳴が響き、その悲鳴に化け物の叫び声が重なって聞こえてきて思わずぎょっとする。
頭がどうにかなりそうだ。人々の悲鳴も、化け物の叫びも、けたたましい足音も、俺の心を蝕む猛毒となって全身を強張らせた。だがそれでも必死に床を蹴り続けた。
そして数十秒後、人々の悲鳴がだいぶ減って化け物の反響するような声がより強く聞こえ始めたその時、トクトクというくぐもった音が小さく響きだした。
「銃声だ……! きっとウォルターたちだ」
そう言ってデイビスさんが角を折れ、幅の広い通路をざっと見た。大丈夫だ、と手を振られると、俺とシャノンは用心深く周囲を見回しながらデイビスさんについていく。
なんて頼りになる人なんだ。ラテン系の青年の手に握られているのは
「なんだよ、あれ……」
思わず呟いた俺の視線の先では、人が倒れていた。小さな店先に殺到するように倒れていた。頭から血を流し、無数の血溜まりを作っている地獄絵図。そこに見知った三人の姿を捉えて、なおさら冗談みたいな光景になった。
「お嬢、よく無事で」
一人はウォルターさん。大柄でマッチョな白人だがその手にはごつい拳銃が握られ、耳には黒いインカム。まるで映画の世界から飛び出してきたような風貌だ。
「当然です。あの人の娘ですよ……そう簡単に亡くなられては困ります」
もう一人はアイラさんだった。
スーツ姿で、同じく拳銃を握っているが、優しく甘い顔立ちの少女が持つとモデルガンに見えてくる。サバゲーに目覚めたがスーツフェチもやめられない女子高生、というカオスな風体。その脇では母さんがさらに甘い、子供みたいに無邪気な表情を浮かべていた。
「うわードライだぁ。でも良かったね、アイラちゃん。すごく心配してたもんね。もうずっとキョロキョロしっぱなしで」
「あなたに言われたくありません。一番落ち着きがなかったでしょ」
ゾンビ映画みたいな状況でもいつもの調子で話す母さんとアイラさん。そんな能天気な母さんたちに俺は駆け寄った。
みんな無事で本当によかった……、と俺が心の中で安堵している間も、外人護衛チームは油断なく周囲を警戒していた。
「お嬢、周囲の敵は片付けた。しばらくは安全だ」
「そうか。良かった……」
安心させるようにウォルターさんに告げられ、シャノンはそっと胸を撫で下ろした。
それから俺たちは非常階段に向かって歩みだした。
ウォルターさんが言うには、最初のVICSが確認された博物館からもっとも遠い場所、つまり屋上の駐車場に続く通路はまだ通れるらしく、そこから脱出するプランを用意しているという。
三階まで来ると、急に辺りが薄暗くなった。ここはフロア中央の吹き抜けに近くまだ明るいが、背後の非常階段は暗く閉ざされ、化け物が大口を開けているみたいに見えた。
背筋がぴりぴりする。俺が身体を丸めるようにして耐えていると、非常電源がやられたか……、とシャノンが呟いた。
それからウォルターさんが先導する形でしばらく進んでいると、突然下の階から叫び声が響きだす。完全にハイになっているような、理性が壊れた声音。間違いない。誰かが襲われてる。
「おい、下の階で――」
「悪いがお嬢、助けてやれない。今いるメンバーだけで精一杯だ」
もっともな物言いだったが、そこでウォルターさんは顔を一瞬下に向け「それにあれは、もう手遅れだ」と付け加えた。
俺はその視線につられ、歩きながら落下防止用のガラスパネル越しに覗いていた。
人が転がっていた。背中にバスケットボールくらいの大きさの蜘蛛に似た生物がついている。それと同じモノが数匹群がり、尻尾のようなモノを振りながら男の肉を噛み千切った。その光景は、ここが日本どころか地球であるということも疑わしくなるほど凄惨で、人間が食物連鎖の下位であるような別世界にいるようで――
「みんな走れ……!」
エスカレーターに差し掛かったところでウォルターさんが拳銃を構えた。その銃口を向けた先には、たった今見たばかりの大蜘蛛たちが階下のエスカレーターから押し寄せてきていた。
化け物の反響した声と銃声を背に受けながら、俺たちはVICSの侵攻で止まったエスカレーターを駆け上がる。
(次回に続く)
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