第14章 香りに包まれる癒しの庭

 春の陽気が戻ってきた頃、ミアは茶屋の庭をさらに充実させることを思いついた。これまでも美しい花々で彩られていた庭だったが、今度は特別な「癒しのハーブガーデン」を作ろうと考えたのだ。


「リリー、ハーブガーデンを作るの手伝ってくれない?」

 ミアが相談を持ちかけると、リリーは目を輝かせて答えた。

「もちろん! 素敵なアイデアね。私も色々なハーブについて勉強してみたかったの」


 二人は早速、ガーデンの設計に取り掛かった。村の図書館で園芸の本を借り、どのハーブをどのように配置するか、熱心に話し合う。


「ラベンダーは睡眠を助けるそうよ。入り口近くに植えましょう」

「カモミールはリラックス効果があるわね。日当たりの良い場所がいいかも」


 計画が整うと、村人たちにも協力を呼びかけた。みんなで力を合わせて、庭の一角を耕し、畝を作り、苗を植えていく。


 モモおばあちゃんは、昔から伝わるハーブの知恵を教えてくれた。

「ローズマリーは記憶力を高めるのに良いのよ。若い頃、よく使ったものだわ」


 子どもたちも、小さな手で一生懸命土をかぶせたり、水やりを手伝ったりする。

「ミアお姉ちゃん、このハーブは何の匂いがするの?」

「それはミントよ。爽やかな香りでしょう?」


 日々の手入れを重ねるうちに、ハーブたちは美しく成長していった。ミアは、育てる過程でそれぞれのハーブに小さな魔法をかけていく。愛情を込めて語りかけ、時には自身の癒しの力を分け与える。


 初夏になると、ガーデンは様々な香りと色彩で溢れるようになった。ラベンダーの紫、カモミールの白、セージの青緑、タイムの小さな花々。それぞれが美しく、そして強い生命力を放っている。


 ミアは、このハーブガーデンを村人たちと共有することにした。毎週日曜日の午後、ハーブティーの試飲会と、ハーブについての小さな勉強会を開くことにしたのだ。


「今日は、ラベンダーとカモミールのブレンドティーです。リラックス効果抜群ですよ」

 ミアが淹れたお茶を、村人たちが味わう。


「まあ、本当に心が落ち着くわ」

「疲れが取れていくみたい」


 お茶を楽しみながら、ミアはハーブの効能や使い方を説明していく。村人たちは熱心に耳を傾け、時には質問を投げかける。


「ミントは虫除けにもなるんですって。庭に植えておくと良いみたいよ」

「バジルは料理に使えるだけでなく、ストレス解消にも効果があるそうです」


 リリーも、花の魔法とハーブの効能を組み合わせた新しい魔法を研究し始めた。

「ねえミア、ラベンダーの花言葉と、その癒し効果を組み合わせた魔法ができたわ」


 ガーデンは、単なる植物の集まり以上の存在になっていった。村人たちの憩いの場所となり、時には悩み相談の場にもなる。ハーブの香りに包まれながら、人々は自然と心を開いていく。


 ある日、近隣の町から訪れた人が感動して言った。

「ここに来ると、心が洗われるようです。まるで魔法にかけられたみたい」


 ミアは微笑んで答えた。

「そうかもしれません。でも、それは植物たちの魔法であり、みんなの心が作り出した魔法なんです」


 秋が近づき、ハーブの収穫の季節になると、ミアは村人たちにドライハーブの作り方を教えた。吊るして乾燥させたハーブの束が、茶屋の軒下を彩る。


「冬の間も、この香りを楽しめるわね」

 リリーが嬉しそうに言った。


 ハーブガーデンは、四季を通じて村に彩りと癒しをもたらし続けた。そこは、植物と人々の想いが交差する特別な場所。小さな魔法が、日々静かに育まれていく庭だった。

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