第9章 夏の訪れと癒しのお茶会

 春の柔らかな日差しが強さを増し、ふわもこ村に初夏の訪れを告げていた。木々は濃い緑に色づき、野原には色とりどりの夏の花が咲き誇っている。ミアは、この一年で学んだ全ての経験を活かし、新たな挑戦を始めようとしていた。


「ねえ、モフモフ」ミアは窓辺に座り、村を見渡しながら言った。「私、みんなのために何か新しいことを始めたいの」


 モフモフは、ミアの膝の上で丸くなりながら答えた。「それはいいアイデアだね。ミアの特技を活かせることがいいんじゃないかな」


 ミアは少し考え込んだ後、パッと顔を輝かせた。「そうだわ! 『癒しのお茶会』を始めてみようかしら」


 その日から、ミアは準備に取り掛かった。まず、村の中心にある小さな空き家を借りることにした。リリーの協力を得て、庭には様々なハーブや花を植え、室内は温かみのある家具で整えた。


 準備が整った頃、ミアは村中に「癒しのお茶会」の案内を出した。最初は小規模に始めることにし、5人ほどの村人を招待した。


 お茶会の当日、ミアは早朝から起き出し、特別なブレンドティーの準備を始めた。モモおばあちゃんから教わった伝統的なレシピに、自分なりのアレンジを加える。


 カモミールの優しい香り、ラベンダーのリラックス効果、ローズヒップの甘酸っぱさ、そしてレモンバームの爽やかさ。これらをバランス良くブレンドし、そこに自身の癒しの魔法を少しずつ注ぎ込んでいく。


 お茶を淹れる際、ミアは一杯一杯に心を込めた。湯気と共に立ち上る香りは、部屋全体を心地よい雰囲気で満たしていく。


 やがて、招待した村人たちが次々とやってきた。


「わぁ、なんて素敵な香り」リリーが部屋に入るなり、感嘆の声を上げた。


「ここに来ただけで、心が落ち着くわ」年配の女性が微笑んだ。


 ミアは緊張しながらも、温かな笑顔でみんなを迎え入れた。


「みなさん、ようこそ。今日は特別なお茶会です。どうぞ、ゆっくりくつろいでください」


 村人たちがテーブルに着くと、ミアは丁寧にお茶を注ぎ始めた。カップに注がれるお茶は、淡い琥珀色に輝き、芳醇な香りを放っている。


 最初の一口を飲んだ瞬間、部屋中から驚きの声が上がった。


「なんて不思議なお茶なの!」リリーが目を丸くした。「飲むと、体の中から温かくなって、心まで軽くなるわ」


「本当だ」別の村人が頷いた。「最近悩んでいたことが、少し遠くなった気がする」


 ミアは嬉しそうに微笑んだ。「このお茶には、私の癒しの魔法を込めています。みなさんの心と体を癒すお手伝いができれば嬉しいです」


 お茶を飲みながら、村人たちは自然と会話を始めた。日々の悩みや喜びを分かち合い、時には笑い声も聞こえる。ミアは適度に会話に加わりながら、さりげなく村人たちの様子を観察していた。


 お茶会が進むにつれ、村人たちの表情がどんどん明るくなっていくのが分かる。肩の力が抜け、笑顔が自然に浮かぶ。まるで、日々の重荷から解放されたかのようだった。


 お開きの時間が近づいた頃、モモおばあちゃんが訪れた。


「みんな、こんなに生き生きとしているわ」モモおばあちゃんは感心したように言った。「ミアさん、あなたの癒しの力が、こんなにも素晴らしい効果を生み出すなんて」


 ミアは照れくさそうに頬を染めた。「ありがとうございます。でも、これはみなさんの心が開いてくれたからこそです」


 帰り際、村人たちは口々に感謝の言葉を述べた。


「また参加したいわ」

「友達も誘ってもいいかしら?」

「定期的に開いてほしいな」


 その言葉を聞いて、ミアは決心した。この「癒しのお茶会」を、村の新しい伝統として続けていこうと。


 その夜、ミアは満足感に包まれながら、窓の外の星空を見上げていた。


「ねえ、モフモフ。私、やっと自分の居場所を見つけられた気がするの」


「うん、そうだね」モフモフは優しく答えた。「ミアは、みんなの心を癒し、結びつける特別な存在になったよ」


 ミアは深く頷いた。この一年で経験したこと、学んだこと、そして成長したこと。全てが、今の自分を作り上げている。そして、これからもきっと新しい冒険が待っているはずだ。


 窓の外では、優しい夜風が吹き、木々のざわめきが心地よい音楽のように聞こえる。ミアは、明日からも精一杯、村のみんなのために自分の力を使っていこうと心に誓った。


 ふわもこ村の夜は、静かに、そして確かな希望と共に更けていった。

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