第4章 四季の移ろいと夏祭りの準備
春から夏へと季節が移り変わり、ふわもこ村は鮮やかな緑に包まれていった。ミアの日々は、モモおばあちゃんから学んだ料理と小さな魔法の練習、リリーとの花の世話、そしてモフモフとの散歩で彩られていた。
ある朝、村の広場に賑やかな声が響いていた。
「ミアちゃん、聞いた? 来週、夏祭りがあるのよ!」
リリーが興奮した様子で駆け寄ってきた。
「夏祭り? 素敵! どんなお祭りなの?」
「村人みんなで楽しむ大イベントよ。屋台や出し物、そして夜には魔法の花火も上がるの」
リリーの目が輝いている。ミアも思わず心躍らせた。
「私も何か準備するべきかしら?」
「そうねぇ……そうだ! 浴衣を作ってみたら? ミアちゃんの裁縫の腕前なら、きっと素敵なものができるわ」
リリーの提案に、ミアは目を輝かせた。前世での趣味だった裁縫の腕前を活かせる絶好の機会だ。
「いいわね。挑戦してみるわ」
その日から、ミアは浴衣作りに没頭した。村の布屋で見つけた、淡い水色の生地に白い桜の花びらが舞う柄。それを基に、ミアは丁寧に裁断し、縫い合わせていく。
針を運ぶたびに、ミアは不思議な感覚に包まれた。指先からほのかな光が漏れ、布地に溶け込んでいく。これは、モモおばあちゃんから学んだ「癒しの魔法」が無意識のうちに働いているのだろうか。
作業を進めるうちに、浴衣は単なる衣装以上の魅力を帯びていった。生地の桜の花びらが、まるで本物のように生き生きとしている。そして、着る人の心を穏やかにする不思議な力を秘めているようだった。
完成した浴衣を身に着けると、ミアは鏡の前で息を呑んだ。淡い色合いが肌に優しく馴染み、桜の花びらが風に舞うように見える。そして何より、着ているだけで心が落ち着くのを感じる。
「わぁ、ミアちゃん! その浴衣、素敵すぎる!」
リリーが驚きの声を上げた。
「本当? ありがとう。でも、なんだか普通の浴衣以上のものになってしまったみたい……」
「それがミアちゃんの魔法よ。きっと祭りの日、みんなを癒すことができるわ」
リリーの言葉に、ミアは少し照れくさそうに微笑んだ。
祭りの準備は村中で進められていた。広場には色とりどりの提灯が飾られ、屋台の設営が始まっている。ミアも村人たちと協力して、飾り付けを手伝った。
その中で、ミアは新たな発見をした。自分の作った装飾品が、他の村人たちのものより鮮やかに輝くのだ。紙で作った花は本物のように香り、風車は心地よい音を奏でる。
「ミアさん、あなたの作ったものはどれも特別ね」
モモおばあちゃんが近づいてきて、優しく語りかけた。
「本当ですか? 私、無意識のうちに魔法を使っているみたいで……」
「それが自然なことよ。あなたの中にある癒しの力が、周りのものにも影響を与えているの」
モモおばあちゃんの言葉に、ミアは自分の力の成長を実感した。
祭りの前日、村全体が期待で胸を膨らませていた。ミアは最後の仕上げとして、自作の浴衣に小さな魔法をかけることにした。
静かに目を閉じ、心の中で祈りを捧げる。
「この浴衣を着る人が、幸せな気持ちになりますように」
すると、浴衣全体が淡く光り、桜の花びらが風に揺れるように見えた。
祭りの朝、ミアは完成した浴衣に袖を通した。鏡に映る自分の姿に、思わず微笑みがこぼれる。
「ミア、本当に素敵だよ」
モフモフが感心したように言った。
「ありがとう、モフモフ。さあ、祭りを楽しみましょう!」
ミアは心躍らせながら、家を出た。村は既にお祭りムード一色だ。色とりどりの浴衣を着た村人たち、美味しそうな香りを漂わせる屋台、そして至る所で響く笑い声。
ミアの浴衣は、予想以上の反響を呼んだ。
「ミアちゃん、その浴衣素敵ね! 着ているだけで心が落ち着くわ」
「ミアさん、浴衣を見ているだけで元気が出てくるよ」
村人たちの声に、ミアは嬉しさと照れが入り混じった気持ちになった。自分の力が、こんな形で人々を幸せにできるなんて。
祭りは夜まで続き、最後は魔法の花火で締めくくられた。夜空に咲く色とりどりの花火は、消えた後も余韻を残し、見る者の心を癒していく。
ミアは夜空を見上げながら、心の中でつぶやいた。
(この村で、私は本当に自分の居場所を見つけられたんだわ)
祭りの余韻に浸りながら、ミアは静かに家路についた。明日からは、また新たな日常が始まる。そして、きっと新しい発見や成長が待っているはずだ。
ミアの背中には、祭りの夜空に咲いた花火のように、希望の光が灯っていた。
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