第2話
アリシア様と会ってから2日が経過していた。
フリッツは相変わらず卒業パーティーのパートナーの申込みをしてくる様子はないし、メラニーと親しげな様子を校内で見かける。
……卒業パーティーは来月だというのに、一体フリッツは何を考えているのだろう? それとも、メラニーをパートナーに決めてしまったのだろうか?
かと言って、私の口から問い詰めるのもイヤだった。
仮に、ロッテには関係ないだろうと言われようものなら、冷静でいられる自信が無かったからだ。
そこで私はフリッツを揺すぶる作戦を取ることにした――
――その日の中休み。
私はフリッツのクラスを訪ねていた。
「フリッツはいるかしら……?」
教室を覗いていると、近くにいた男子生徒が私に気付いて声をかけてきた。
「あれ? 君は……2年生かい? 誰を探しているのかな?」
2年生の女子生徒は制服のリボンが赤と決められている。彼は即座にそのことに気付いたのだろう。
「はい、フリッツ・メンゲル様を探しています」
「あぁ、フリッツか。彼ならいるよ。おーい! フリッツ!」
男子学生が教室の窓際に向って声を張り上げると、他の男子生徒の陰からフリッツが姿を現した。
「何?」
「2年の女子生徒がお前に会いに来てるぞ!」
「え? 俺に?」
そこで私は教室の入口から顔を覗かせた。
「あ! ロッテじゃないか!」
私が会いに来たことに、よほど驚いたのかフリッツが目を見開いた――
私とフリッツは廊下で話をしていた。
「一体、何の用で俺の教室に来たんだよ」
「何って、顔を見にきちゃ行けなかったの? それとも迷惑だった?」
あろうことか、この私に何て物の言い方をしてくれるのだろう?
「迷惑だったとは言ってないよ。ただ驚いただけだよ。だって校内で俺に会いに来たのは初めてだろう?」
「ええ、そうよ。だって遠慮していたから」
これでも私なりに今までフリッツには気を使っていたのだから。
「ふ〜ん……そうか。中休みは短いから、手短に用件を話してくれよ」
その言い方にイラッとくる。
本来なら私だって、たった15分しか無い中休みにわざわざ校舎が違うフリッツのクラスになど来るものか。
だけど、昼休みはいつもメラニーと過ごしているから会いに来れないのよ! ……とは、口が裂けても言いたくは無かった。
言ったら何故か負けたような気がするからだ。
「どうしたんだ? 眉間にシワが寄ってるぞ?」
フリッツは私の顔の表情に気付いたのか、首を傾げる。
「そう? 気のせいじゃないの? ところで、フリッツ。明日は学校がお休みでしょう? 久しぶりに私と一緒にアリシア様のお屋敷に遊びに行かない?」
「え! いや〜……その、明日はちょっと無理なんだ。その、友人と出掛ける用事があってね」
私から視線を反そらせながら返事をするフリッツ。
「あら、そうなの? 友人て誰?」
「話しても仕方ないだろう? ロッテの知らない相手なんだから」
「ふ〜ん……そう。なら仕方ないわね」
やはり、出掛ける相手はメラニーに違いない。
実は今朝、メラニーが複数の女子生徒たちと歩いている姿を目撃した。
メラニーは彼女たちに、明日は10時に噴水広場の前で待ち合わせをして出掛るので楽しみだと自慢げに話しているのを偶然耳にしていたのだ。
「そう、仕方ないんだよ。」
ぎこちなく返事をするフリッツ。
「分かった、ならいいわ」
「え? いいの?」
私があっさり引いたからだろう。フリッツがキョトンとした顔になる。
「ええ、いいわ。だって先約があるのでしょう? それとも約束を取り消せるの?」
「いや、それは無理だよ!」
フリッツはブンブン首を横に振り、即答する。
やはり、メラニーとの時間を優先するということなのか。再び私の中でフツフツと怒りが湧いてきそうになる……のを理性で何とか抑え込む。
「分かったわ、それなら私1人でアリシア様の家に行ってくるわ」
「あぁ、悪いけどそうしてくれるかい?」
その表情、少しも悪そうに見えない。むしろ安堵の表情に見える。
「それじゃ、休み時間がそろそろ終わるから私、もう行くわね」
「ああ、それじゃあね」
ホッとした様子のフリッツに手を振ると、私は急ぎ足で自分の教室へ向った。
フリッツはきっと、今の話で油断したに決まっている。
絶対明日、2人はデートをするに違いない。
その決定的証拠を掴んでやろうじゃないの!
私は闘志を胸に燃やすのだった――
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