【完結】キス現場を目撃して浮き足立っていたら、あれよあれよと両想いになりました!

刺身

1.リーゼはお兄様を応援します!!

 伯爵令嬢リーゼ・ロッテ15歳は、ある日見てしまったのです。


 リーゼの兄であるアッシュ・ロッテと、その古い友人であるレオ・カーネル伯爵令息の秘められた関係をーー。






ーーえ? え? 今のは……何!?


 長いストレートの銀髪に碧眼が美しい、愛らしい容姿のリーゼは壁に背を付けて、混乱した頭で必死に考えた。


 レオへの挨拶ついでに、母ーーつまりロッテ伯爵夫人から持って行くように言われたとっておきの紅茶とお茶菓子。


 どさくさ紛れに食べられないかしら、なんて脳天気に画策しながら、開いていたアッシュの自室の扉を覗いたその先で、重なっていた2つの影。


 木漏れ日が入り込む大きな窓を背景に、こちらに背を向ける形で机に腰掛けて上向いたアッシュに、覆い被さるように身をかがめたレオの姿がリーゼの瞳に飛び込んできた。


 一瞬で網膜に焼きついたその光景は、まさしくおとぎ話に出てきそうな1枚の絵画のように絵になった。


ーーえ? く、口付け? い、いやいや、そんなまさか。二人とも……特にレオ様はおとぎ話の王子様のようにとても美しいお顔立ちだけれど、立派な殿方よ……っ!?


 リーゼと同じ銀髪に碧眼の兄であるアッシュも確かに女性に人気がある。


 一方で、長い金髪に翠の瞳で物腰も穏やか。まさしく物語の王子様と言っても過言ではない、レオの女性人気はその比ではなかった。


 18歳の現時点で並いる令嬢たちを色めき立たせる、二台巨塔の2人が連なり歩けば後には屍ならぬ失神者の山。


 我こそはとそんな2人にアタックする猛者は数知れず。しかもレオに関しては昼夜山のような令嬢との縁談話に繰り出しているという噂まであるから尚のこと。


 それでも浮いた話一つもない。そんなまさしく孤高の存在の謎は、つまりことだったのだとリーゼは雷が落ちたように目を見開いた。


 ぐるぐると目がまわるような感覚に襲われながらも、リーゼは必死に思考を巡らせる。


 何かいけないものを見てしまった気がして、かつてないほどにドクドクと鳴る自身の心臓の音が周囲に漏れ聞こえている気さえした。


ーーみ、見間違い……? い、いやでもあれはどう見ても……っ!


 無意味に手元の紅茶とお茶菓子を見下ろして、リーゼはごくりと喉を鳴らす。


「ーーおい、何してるんだ。さっさと離れろ」


「ひどい言い草だな。アッシュの言う通りにしてあげてるのに」


 アッシュとレオの声が立て続けに聞こえてきたことで、リーゼは恥も外聞もかなぐり捨てて全神経を耳へと集中させる。


「……お前、相手を間違えてねぇか……?」


「こんな可愛い顔、見間違える訳ないでしょ」


「はぁっ!?」


「うぶ……っ!?」


 不機嫌そうなアッシュの声に返答するレオの言葉に、素っ頓狂な声をあげるアッシュ。と、思わず声を発しそうになったリーゼはすんでで自身の唇を噛み締めた。


ーーこれは、ダメだわ!! ダメなやつだわ!!


 愛らしい唇を噛み締めたままに目を見開いて硬直するリーゼは、ギコギコとロボットのようなおかしな動きで静かにアッシュの隣にある自室へと逃げ込む。


 震える手で今にも落としそうな紅茶とお茶菓子のトレーを台へと避難させると、リーゼは自身の両頬を手のひらで覆って真っ赤になった自身の顔を鏡面越しに見た。


「ど、どうしましょう。なんてものを見てしまったのかしら。こ、これはあれよね。仲が良い仲が良いとは思っていたけれど、お兄様とレオ様はそれ以上の……っ!?」


 ぎゃあと1人で自身の顔を両手で覆うと、リーゼは自身のベッドへとダイブする。その後も1人で控えめに騒ぎ続けては、ベッドの上をゴロゴロと転がリ回った末に、リーゼはぴたりとその動きを止めた。


「大変だわ、この胸の鼓動……この感情は何かしら」


 1人眉間に皺を寄せて自らの掌を無意味に見下ろした次の瞬間には、たくましい想像力で角度を変えた先ほどの2人の情景を思い浮かべてしまい、リーゼは再び声を押し殺して叫ぶ。


「こんなことしていられない! 私に見つかるほどの不用心さなんですもの、私がお二人を影ながらサポートして、お二人の幸せを守らなくては……っ!! 安心してください!! リーゼはアッシュお兄様を応援いたしますわ!!」


 何故か自然とニヤけてしまう口端を堪えられないままに、1人ベッドに仁王立ちに決意を固めるリーゼ。


 その一方で、未だぶつぶつと不機嫌そうなアッシュの部屋から顔だけを出して、レオがリーゼの自室の扉を伺い見ていることを、リーゼは露ほども気づいていなかったーー。




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