第27話 この国の聖騎士

 そこから約一週間経過した。その間、僕たちは町の中にいた。今この辺りが物騒であり、迂闊に町の外や森に行くわけにはいかないからだ。だから僕たちは冒険者ギルドに行ってスーネたちと訓練したり、ルイに神性力を扱うための特訓をしてもらった。そのおかげで対人戦に少し慣れたし、自分の中の神性力が知覚できた気がした。とはいえまだコントロールはできないので、神性石がなければ漏らしたままになる。だが確かに成長の実感を得る事が出来た。


 その反面、冒険者ギルドの依頼を受けることもできないため金策もできなかった。町の中でできる依頼は数多くいる冒険者たちが余すことなく受けていったからだ。なので僕たちはいまだにルイにお世話になっていた。


 そしていつもどおり宿で晩ご飯を食べる。ここ最近はこの宿のテーブルでエルフの吟遊詩人であるリリさんと皆で話をするのが日常の光景になっていた。そこでリリさんがある話題を出した。それは僕たちがいるこの国のことであった。


「仁たちはこの国のことってどこまで知っている?」

「この国のことですか?」

「そう。この国のこと」


 僕はこの質問を受けて、実はこの国のことをあまりわかっていないことに気づいた。


「この国は太陽の神を信仰している国ですよね?その神の加護を受けてる人たちが騎士や神官にいる。おそらく僕が知っているのはこのくらいだと思います」

「その通りだ。この国は太陽神国と呼ばれている宗教国家。太陽の神を信仰している国で選ばれた教皇が治めている」


 どうやらここは宗教国家であったようだ。彼女の説明によると、この国の組織は上から教皇、枢機卿、大司教、司教、司祭、助祭となっているそうだ。この町も助祭の代官が治めている。ゆえに各町にある太陽神を祀る教会は町の中枢にあるそうだ。ちなみに教会はその下にいる神父やシスターが管理しているとのこと。そしてこの国は騎士もいる。加護を受けた騎士もいれば、受けていない騎士もいる。ただその中で聖騎士という位が設けられているそうだ。彼らは枢機卿に次ぐ権力を持っており、太陽神の加護を受けた実力者10名がその役職につける。いわばこの国の軍隊のトップである。そしてこの10名は太陽神の加護を受けたものしか入ることはできない。そのためとある特権を持っているそうだ。

 リリさんは続けて言う。


「この国の聖騎士は力のある者しかなれない。それは即ち、太陽神の加護を厚く受けているということ。だから彼らは太陽神の代理人とも呼ばれており、そしてこの国では神聖視されている。それで彼らは一つの大きな特権を持っているんだ」

「それは何ですか?」

「それはこの国の教皇を決める権利」


 教皇を決めるということはこの国のトップを選ぶ権力があるということだ。


「もちろん誰でも良いというわけではない。現在の枢機卿の役職についている者の中から選ぶ必要がある。彼ら聖騎士は厚い加護を持っている。そんな彼らが選んだ人物であれば、この国の民たちは文句を言うことはない」


 それはつまり、民衆から見れば神が選んだように見えるからだろう。だから文句は言わないし、言えない。それに民衆から見れば枢機卿でさえ遠い存在だ。だから誰が教皇になろうとあまり関係はないのかもしれない。


「ちなみに宗教の聖職者たちだけで国はやっていけるのですか?」


 僕は日本の出身なのでこの国のことがうまくイメージできない。


「もちろんこの国の政治はそれらの役職についた者が行っている。でもその補佐をする者たちは聖職者でなくても大丈夫だ。だから実務を行っている人たちは大半が助祭などの役職を持っているわけではない。あくまで太陽神を信仰しているだけという者もいるし、実務には実務の役職があるからね」

「そうだね!太陽神の加護を持っているから有能だということでないし、加護がなくても優秀な人はいる。現に今の枢機卿や過去の教皇だって加護を持ってない人がいたはずだよ。何より加護持ちだけで政治を行うなんて人数的に絶対無理だからね」


 リリの説明にルイが補足する。そしてリンが疑問を口にする。


「ふむ。結局リリは何が言いたいんじゃ?」


 リンの疑問にリリは他のテーブルの人たちに聞こえないよう答える。


「実はね。この町にその聖騎士が一人来るって噂があるんだ」

「なんじゃと!」

「どうやらこの辺りで起きている問題が解決しないから、そのために派遣されるんだと」

「へぇ…」


 リンが驚き、ルイの眼光が鋭くなる。この町にそんな大物が来るのか…。そんな人物じゃないと解決できないことがこの町で起こっているということかな。騎士とか兵士とかたくさん派遣して人海戦術で対応していくのがいいような気がする。なぜならまだ行方不明事件の原因もわかっていない。もしかして派遣にかかる経費の節約でもしたいのかな?でもそれだとリンたちの反応が合わない。だから僕は質問する。


「その聖騎士が来るってことに何か問題でもあるの?」

「直接的な問題が何かあるわけじゃないんだ…。ただこの国は今教皇がいない。まだ選定中なんだ。だから全ての聖騎士は聖都に集まっている。そのうちの一人が派遣されるということはその選定が伸びるということだ。それに今回の教皇の選定は既に長引いてる。もしかしたら派閥争いでもしているかもしれない。そんな状態で派遣されるとなると胡散臭いとしか言えない」


 なるほど。派閥争いか…。想像するだけで面倒くさいに違いない。リンも知っているとなると案外この件に詳しいのだろうか。


「リンも知っていたんだね。意外だよ」


 リンも異世界にいたので、僕は意外に情報通だねと指摘した。だがリンの顔は少し険しい。


「儂はそれは知らんかったが、聖騎士の一人とちょっとした因縁がある。じゃから、もしそいつが来たらこの町で活動しにくくなるかもしれぬ」


 リンは別件で何かあったようだ。この国の聖騎士は選ばれた存在で権力も強そうである。そんな存在と因縁があるとは…。厄介ごとかな。


「リリは聖騎士のうち誰が来るか知らぬのか?」

「知らない。噂だとそこまでは言ってなかったからね」


 つまり来てからのお楽しみということだ。


「じゃあ、その聖騎士が来ないことを祈ろう」


 僕は深く考えずそう言った。言って思った。誰に祈ればいいのかわからない。ただ僕に一番近い神はリンだ。だから彼女に祈った。


 それから二日後その聖騎士が来た。

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