第14話 おとぎ話の真実
――――かつて、この世界には神々と呼ばれる者達が存在した。
神々は、まさに全知全能の存在であったとされる。
その知能は人類を救いに導き、その力はあらゆる苦難を退けたという。
そんな神々を、人類は崇めた。
そして、自分達を崇める人類を、神々もまた愛していた。
しかしあるとき、とある一人の神が過ぎたる『愛』を人類に与えてしまう。
その『愛』は、人類に更なる発展をもたらし、ついには神々に比肩しうる力すら与えたという。
そしてそれが、悲劇の始まりとなった……
『……それって、かつて存在したと言われる、偉大なる科学者たちをモチーフにした創作でしょ?』
「知っていたか」
『むしろ知らない人の方が少ないでしょ? 大抵の子どもが聞かされる
そうなのか……
軍人時代の俺の仲間には、結構知らない奴がいたんだがな……
まあ、国も違えば育ちの違いもあるというのことなのだろう。
『で? その話が今のこの状況と何か関係があるわけ?』
「……ああ」
俺達は現在、『サンドストームマウンテン』における未踏領域の中核――通称『嵐巣区画』と呼ばれる場所にいる。
正確には嵐巣区画に取り込まれた、と言うべきか。
――未踏領域が広がる。
実はそんなに珍しい現象でもないのだが、まさか大会の最中にそれが起こるとは誰も予想できなかっただろう。
恐らく、大会史上初の大事件となるハズだ。
一体、どれ程の人間がゴール地点に控えていたかは知らないが、俺達のように取り込まれたのだとしたら、助かる見込みはない。
恐らく、この中の風速は100メートルを超えている。
……いや、もしかしたら150メートル近くにまで迫っているかもしれない。
それは、最高クラスの竜巻を超えるほどの風速であり、もし巻き込まれれば生身の人間が生き残る術はないだろう。
そんな中俺達が生き残れているのには、もちろん理由がある。
それは、俺の【ボックスワン】――、いや【パンドラ】のアーマー形状変化で、ドーム型の壁を生成しているからだ。
ドーム型という形状は、横から見ても上から見ても流線型をしており、風の抵抗を極めて受けにくい。
さらに、地中深くまでアンカーボルトを打ち込むことで壁を固定しているため、そう簡単に外れないようにしている。
「お嬢の知っている御伽話だと、その後どうなるんだ?」
『どうって……、力を与えられて調子に乗った人類に神々が激怒し、災いを与えた――、でしょ? 教師からは過ぎた力を持つことや、調子に乗り過ぎると災いの元って習ったわ』
「……ふむ」
まあ、内容としては間違ってはいないな。
完全ではないが……
「……実は、その御伽話には続きがある。それは聞いたことがあるか?」
『続きって……、そんなの聞いたことないわよ? ……ああ、でも、他の文献で『過ぎたる愛』っていうのが、デウスマキナなんじゃないかって説はあったけど……』
「そんな文献があるのか? それは興味深いな……」
中々に面白い。
もしかしたら、ウチ以外にも歴史を継承している家系があるのかもしれないな。
「その文献に書かれている説は間違っていない。『過ぎたる愛』とは、まさにデウスマキナのことを指している」
『はぁ!? 間違っていないって、なんで言い切れるのよ? それに……、仮にそうだとしてもおかしな点があるわ!』
「おかしな点?」
『デウスマキナが今も残っていることよ! あの御伽話では、災いがもたらされ、人類はそれを教訓に
まあ確かに、伝わっているおとぎ話とやらがそんな中途半端な状態では、そう結論付けられても仕方がないか……
「そのおかしな点というのは、俺がこれからする
また食って掛かられるかと構えていたが、予想に反し返ってきたのは沈黙である。
……いや、僅かにだが深い呼吸音が聞こえる。
どうやら興奮を抑えるために深呼吸を挟んだらしい。
『……じゃあ、その続きとやらを聞かせなさいよ』
「ああ……。俺の知る話ではその後、災いをもたらされた人類は滅びに瀕する程の状況に陥ったされる。多くのデウスマキナが暴走し、世界の各地で災害を引き起こしたためだ。そして、その災いは……、
『っ!? そ、それって…………、いえ……、続けなさい』
「しかし、人類もその災いに抵抗しなかったワケではなかった。災いをもたらしたと言われるデウスマキナの破壊に成功したという例もある。そして、破壊に成功したデウスマキナをベースに、人類でも制御可能なデウスマキナを作り出した。神々の技術と人類の技術、その二つが合わさった半神半人とも言えるデウスマキナ。それが【ヘラクレス】や【アトラス】といった、俺達がオリジナルと一纏めにして呼んでいるデウスマキナだ」
厳密に言えば【ヘラクレス】や【アトラス】にも元となるオリジナルが存在するが、現在発見されているのは人類が再構築した半神半人のものがほとんどだ。
真にオリジナルと呼べる――神々により創造されたデウスマキナはほとんど見つかっていないし、見つかっても発見された国で厳重に保管、研究されていると思われる。
『……とんでもない話ね。一般人に聞かせたら、間違いなく爆笑されるか無視されるかのどちらかよ?』
「……続けるぞ」
なんの背景も知らずにこんな話を聞かされても、普通なら信じるられるワケがない。
だからこそ、俺は何も言い返さず話を進める。
「人類は抵抗した。しかし、それでも神々の力には到底及ぶことはなかった。そして、さらなる怒りを買った人類は、神々が引き起こした大洪水に巻き込まれ、滅びた。一部の人間を残して、な」
『……滅茶苦茶ね。それを証明する物がなければ、誰も信用しないわよ? そんなとんでも話』
「だろうな……。俺も荒唐無稽な話だとは思っている。ただ、俺の一族にはそう伝わっているというだけの話だ」
『マリウスの一族って……、さっきグリューネヴァルトって名乗ってたわよね? もしかして、アンタの父親ってコンラート・グリューネヴァルトだったりするの?』
っ!?
驚いた。まさか、お嬢の口から親父の名前が出るとは思っていなかった。
「そうだが、よく知っているな? 一応、親父の階級は中佐だったが、軍人の名前なんて普通の人間は知らないものだろう」
『はぁ? もしかして、アンタ知らないの? コンラート・グリューネヴァルトって言ったら、帝国出身の開拓者の中じゃかなり有名よ? ある時期から情報が全く更新されていなかったけど、まさか軍人になっていたとはね……』
そ、そうだったのか……
やけに開拓者に対し理解があるとは思っていたが……
「……親父は寡黙な人間だったからな。自分のことは、何も話そうとしなかった……。そうか、親父も開拓者だったのか……」
なんだか、胸に熱いものがこみ上げてくる。
俺の夢を応援してくれた父。
その父もまた、同じ夢を目指していたのかもしれないと思うと、妙な嬉しさがある。
『……本当に知らなかったのね。まあ確かに、帝国には徴兵制があるし、コンラートが急に活動を止めたのも納得が行くわ……。でも、そんな怪しい話が伝わっているグリューネヴァルト家って、一体なんなワケ?』
「ん? ああ、それは違う。伝わっていたのは父の家系ではない。母の家系なんだ」
俺はそこで言葉を切り、ゴクリと唾を飲み込む。
帝国では禁句とされる言葉。
今はその縛りがないとはいえ、かつての習慣は早々変えられるものではない。
「……俺の母の名はマリア・アウグスティス。今は亡きロームルス帝国、その皇族の生き残りだ」
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