④
咲良の一言でパッと明るい表情を浮かべた彼は、豪快にメンチカツを口に運ぶ。
「津田くん」
「んぃっ」
口の中一杯にメンチカツが入っていて、可愛らしい返答が辺りに響く。
「ミニトマト、嫌いだよね?」
「……はい?」
急いで飲み込んだものの、虎太郎は咲良の質問の意図が分からない。
「きらい、だよね?」
「……はいっ、大嫌いっす!」
テーブルの下では、咲良が虎太郎の脚を軽く一蹴り。
咲良の言わんとすることが読み取れたようだ。
『雫、ミニトマトが好きだから』と。
「先輩、あ~ん」
「ッ?!」
「あ~ん」
「……」
虎太郎がミニトマトを雫の口元に運ぶ。
さすがの雫でも、咲良の意図が理解できた。
「さっちゃん、余計なことしなくていいからっ!」
「雫のためじゃないよ。あと半年しかないんだから、津田くんのために、私らにできることをしてあげてるだけじゃん」
意味が分からない。
ミニトマトが好物であったとしても、お皿の上にそっと乗せるだけでも十分じゃない。
それがどうしたら、『あ~ん』になるの?
「ほら、津田くん困ってるから、早いとこ食べてあげな。周りの目ってもんがあるでしょ」
「……」
何それ。
ホントに意味わかんない。
「先輩、ヘタの部分を持ってるんで、衛生面は完璧っす」
「っ……」
素手で持ってるからとか、そんな次元じゃないの!
男の子から『あ~ん』して貰うこと自体が問題なんだってば!
一歩も引こうとしない彼。
ほらほら~とばかりに目配せしてくる親友二人。
……もうどうにでもなれ。
ぎゅっと目を瞑って口を開くと、そっとミニトマトが口の中に入った、次の瞬間。
彼の親指の腹が、そっと雫の唇をなぞった。
「ドレッシングが付いたんで」
「っっっ」
「見せつけてくれんじゃん♪」
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