咲良の一言でパッと明るい表情を浮かべた彼は、豪快にメンチカツを口に運ぶ。


「津田くん」

「んぃっ」


 口の中一杯にメンチカツが入っていて、可愛らしい返答が辺りに響く。


「ミニトマト、嫌いだよね?」

「……はい?」


 急いで飲み込んだものの、虎太郎は咲良の質問の意図が分からない。


、だよね?」

「……はいっ、大嫌いっす!」


 テーブルの下では、咲良が虎太郎の脚を軽く一蹴り。

 咲良の言わんとすることが読み取れたようだ。

『雫、ミニトマトが好きだから』と。


「先輩、あ~ん」

「ッ?!」

「あ~ん」

「……」


 虎太郎がミニトマトを雫の口元に運ぶ。

 さすがの雫でも、咲良の意図が理解できた。


「さっちゃん、余計なことしなくていいからっ!」

「雫のためじゃないよ。あと半年しかないんだから、津田くんのために、私らにできることをしてあげてるだけじゃん」


 意味が分からない。

 ミニトマトが好物であったとしても、お皿の上にそっと乗せるだけでも十分じゃない。

 それがどうしたら、『あ~ん』になるの?


「ほら、津田くん困ってるから、早いとこ食べてあげな。周りの目ってもんがあるでしょ」

「……」


 何それ。

 ホントに意味わかんない。


「先輩、ヘタの部分を持ってるんで、衛生面は完璧っす」

「っ……」


 素手で持ってるからとか、そんな次元じゃないの!

 男の子から『あ~ん』して貰うこと自体が問題なんだってば!

 一歩も引こうとしない彼。

 ほらほら~とばかりに目配せしてくる親友二人。

 ……もうどうにでもなれ。


 ぎゅっと目を瞑って口を開くと、そっとミニトマトが口の中に入った、次の瞬間。

 彼の親指の腹が、そっと雫の唇をなぞった。


「ドレッシングが付いたんで」

「っっっ」

「見せつけてくれんじゃん♪」


 

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