すぐ傍を通り過ぎる人たちの視線が突き刺さる。

 彼の言葉の意味を辿るように自身の視線を降下させると。


「ん゛ん゛んんんんんんんっっっっっ」


 何何何何っ?!

 何をどうしたらこんな状況になるのッ?!


 なんと、大柄な男子高生に馬乗りになっていた!

 しかも、その男子の大事な部分を鷲掴みにして……。


「ごごごごごごごっ、ごめんなさいっ!!」


 慌てて彼から離れ、床の上に正座。

 大火傷を負ってるんじゃないかと思うくらい、顔が熱い。


 右手にはスマホ。

 左手には柔らかい?ような何とも言えない感触が残ってる。


「怪我は無いっすか?」

「……へ?」

「どこか痛い所とかは?」

「……ないです」

「はぁ……ならよかった」


 上半身を起こした彼は苦笑しながら鞄を拾い上げた。

 私を守るために鞄を放ったのだろう。


「立てます?」

「……」


 あり得ない状況で、足に力が入らない。

 腰が抜けたのかも。


 彼に支えられるようにして何とか立てはしたけれど、足下がおぼつかなくて立っているのがやっとだ。

 しかも、彼の視線が私の右手に釘付けだ。

 ……もう、よりにもよってアルディ様を見られてしまった。


「もう大丈夫ですっ。行って下さい」

「……でも」

「ホントに大丈夫です。……死ぬほど恥ずかしいのでっ」


 視線が上げられない。

 彼が今どんな顔をしてるとか。

 どこの学校の制服なのかすら、確認できないほど。

 ちゃんと謝罪もしなければならないのに、息もできないほど、羞恥で死にそう。


「じゃあ……」


 真横を通り過ぎる際に、フッと彼が笑った気がした。

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