15章 夢を叶えるために

 初出場したブリスベン オリンピックで、見事に銅メダルを獲得した虎太くん。

 新聞各社やテレビ各局の取材が殺到し、結局現地でのデートは出来なかった。


 当然、凱旋した彼を待つ報道陣の数は、想像していた以上に多くて。

 連日、自宅を取り囲むカメラの多さに、雫は一歩も近づくことができなくなっていた。


 長いはずの大学の夏休みがあっという間に明け、授業漬けの日々が始まった。


 歯学部といっても、1年目は専門分野ではなく、医学部同様に一般教養の授業がメイン。

 だから、必然的に他学部の生徒と同じ授業を受けることで、交流が深まると言われているのだが……。


「香椎さん、お昼一緒にどう?」

「……えっと」


 園子と選択科目が違う曜日があり、どうしても雫は1人きりになることがある。

 それを知ってか。

 同じ講義を受ける男子学生からランチのお誘いを受けるのだ。


「ごめんなさい。友達と約束してるので」

「じゃあ、その友達も一緒でいいからさ」

「……ごめんなさい」


 この手の話題には、未だに慣れない雫。

 高校の時は親友2人が軽くあしらってくれたし、普段は園子が上手くかわしてくれる。


 虎太郎との会話に慣れたとはいえ、彼氏とその他大勢の男子との差は歴然。


「あ、もしもし?」


 じーっと見られている視線が怖くなって、思わず電話がかかって来たふりをする。

 誘って来た男子たちに軽く会釈しながら、学食へと急ぐ。


「園ちゃんっ!」

「っ?!……どうしたの?」

「お昼ご飯誘われたんだけど、上手く断れなくて。後から来るかもしれないから、その時は上手く断って!お願いっ!!」

「しーちゃん、何度も言うけど。そういう時は、『彼氏がいるからごめんね』で通用するから」

「うっ、……うん」

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