第44話

SSグループ本社。監視室。

 仙石の手下達は小型モニターを見て、必死に聖飛達を探していた。

 仙石は椅子に腰掛けて、クリティアの様々な場所に配置した手下達の連絡を待っている。

 梨本は仙石の横で、立っていた。

「西区の港のチームからの報告です。海野聖飛と朝野葵桜の捕獲とデータの奪還に成功したようです」仙石の手下の一人が報告した。

「これで私達の勝利ですね」梨本は言った。

 部屋中の雰囲気は、勝利ムードになっている。部屋に居る殆どの者が勝ちを確信しているように見える。けれど、仙石だけは違った。

「……ちょっと待って」

「どうかなされましたか?」

「捕獲した海野聖飛と朝野葵桜を見せろ」

「わ、分かりました。捕獲した海野聖飛と朝野葵桜を見せろ」梨本は仙石の言葉を復唱した。

「は、はい」仙石の手下は、モニターを管理する機械を操作した。

「大型モニターに表示します」

 大型モニターに直哉と紅礼奈の姿が映った。

「……違う」

「た、たしかに。映っている男は海野聖飛ではない」梨本は大型モニターに映る直哉の姿を見て、驚いた。

「海野聖飛の市民IDを調べろ」仙石は梨本に指示を出した。

「了解致しました。海野聖飛の市民IDを調べろ」梨本は手下達に命令した。

「了解しました」仙石の手下達は、市民IDを調べ出した。

「海野聖飛はこの男で間違いありません」手下の一人が検索結果を報告した。

 手下の一人の目の前にある小型モニターには、九十九直哉が海野聖飛として表示されている。

「そんな事はない。梨本」

「はい。かしこまりました」梨本は、直哉が表示されている小型モニターへ向かった。

「変われ」

「は、はい」仙石の手下は椅子から立ち上がった。梨本は入れ替わるように椅子に座り、調べ始めた。

「……入れ替わっている。仙石様」

「なんだ?」

「海野聖飛と九十九直哉の市民IDが入れ替わっています」

「……やはり、入れ替わっていたか。と言う事はデータも偽物のはずだ。梨本、調べろ」

「はい」梨本は西区に居る者達から送られてきたデータを解析する。

「……くそ、やられた。オリジナルデータではなくコピーです」

「やはり、そうか」

「仙石様」手下の一人が、大声を出した。

「なんだ?」

「ウイルスが侵入してきて、監視レーダーやセキュリティなどが破壊されています」

「こちらもです」

「こららでも、同様にウイルスに侵されてます」

 部屋中は賢斗が作ったウイルスが猛威を振るい、混乱している。

「どうにかならないのか?」

「できません」

「……島全土に居る者達に対して、連絡は出来るか?梨本」

「確認します」梨本は急いで、連絡機能がウイルスに侵されていないか調べる。

「大丈夫です。連絡機能は生きてます」

「よし、繋いでくれ」

「はい。了解致しました」梨本は連絡を取るための準備を始める。

 仙石は椅子から、立ち上がった。眉間には皺が寄っており、目つきもかなり鋭い。苛立っているのが顕著に分かる。

「……クリティア中に居る同士に告ぐ。まだ捕獲出来ていないテロリストが二人居る。どんな手段を使っても構わん……捕獲しろ。必ずだ」仙石は力強い声で伝えた。


 クリティア中に散らばっている仙石の手下達は、血眼になって聖飛と葵桜を探している。

 東区では、仙石の手下達が複数のチームに分かれ、家を一軒ずつ調べていた。

「どうだ?居たか」仙石の手下の一人が、他の手下に連絡をした。

「こちらのエリアには居ません」

「そうか。そちらのエリアはどうだ?」仙石の手下は違うエリアを探している他の手下に状況を訊ねる。

「こちらも居ません」

「どう言う事なんだ?どこに居るんだ」


 北区。仙石の手下達は工場や倉庫のシャッターをハンマーなどで無理やり開けて、中に入り、聖飛達を探していた。

「ここも違う」

「手掛かりになりそうなものはあったか」

「いえ、何もないです」

「なんで、これほど探して、何も見つからないんだ」

「次は、この区と東区の境にある港を調べますか」

「そうだな。あの周辺は普段人が立ち寄らないからな」


 南区。仙石の手下達は数チームに分かれ、ホテルなどの宿泊施設に入り、聖飛達が居るか探していた。

「レンタル用の自転車が二つありません」仙石の手下がホテル前の駐輪場に置かれているレンタル用自転車の数を見て、言った。

「調べるぞ」

「はい」

 仙石の手下達は、ホテルに入り、捜索を始めた。

「どうだ?手掛かりはあったか?」

「鍵が二つだけありません」

「二つ……もしや、逃走に使ったのか?」

「でも、自転車で逃げられる距離などたかが知れてます」

「……たしかにそうだな」


 西区。仙石の手下達は、直哉と紅礼奈を見張るチームと捜索チームに分かれて、行動していた。

「おい、仲間はどこに居る?」手下の一人が直哉の頬を叩いた。

「し、知りませんよ。ぼ、僕らは、あの人達に脅されてたんですから」

「嘘を吐くな。市民IDの入れ替え、コピーデーター。これは確信犯だろ」

「それも、脅されてただけです」

「きゃ!!」紅礼奈は悲鳴を上げた。

 紅礼奈は仙石の手下に髪の毛を捕まれ、銃を向けられていた。

「どうする?これでも嘘を吐くのか?」

「卑怯だぞ」

「うちはいいから」

「うるさい」仙石の手下が紅礼奈の頬を叩く。

「てめぇ、何してんだよ!」直哉は暴れようとするが、手錠を掛けられているせいで身動きが取れない。

「どうする?」

「……どこに隠れてるか教えるよ」

「直哉?」

「ほう。吐く気になったか」

「その代わり、く……彼女に手を出すな」

「いいだろう。約束してやる」仙石の手下は言った。

「何言ってるのよ」

「大丈夫。お前の身の方が大事だ」

「……馬鹿」

「大丈夫。気にするな。あいつも、こうするはずだから」

「二人で喋ってないで早く言え。俺の機嫌が変わらないうちにな」仙石の手下は直哉に銃口を向けた。

「……すいませんでした……他の二人が隠れているのは、北区と西区の境にある港の小屋の地下です」直哉は一世一代の大博打に出た。聖飛達がステルス機関にデータを渡すのが先か、嘘がばれて自分達が死ぬのが先か、答えは二つに一つしかない。

「……本当か?」

「あぁ、本当です」

「そうか。テロリストを捜索中の者達よ。テロリストが隠れている場所は北区と東区の境にある港の小屋の地下だ。もう一度言う。テロリストの隠れている場所は北区と東区の境にある港の小屋の地下だ」仙石の手下は、トランシーバーで、クリティア全土に散らばっている仲間に連絡をした。

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