第34話

ユートピアから少し離れた路地裏。聖飛と賢斗はマンホールの蓋を開けた。

「先に入ってくれ」

「はい」賢斗ははしごを使って、下水道に降りた。

 聖飛ははしごに掴まり、マンホールの蓋を閉めた。その後、下水道に降りた。

 下水道内は悪臭が漂っている。

「行くぞ」

「はい」

 聖飛と賢斗は、隠れ家に向かって、走り出した。

「こっちで合ってるよな」

「はい。間違いないです」

「急ぐぞ」

「了解です」

 地上から爆発音が聞こえる。爆発の衝撃で、下水道内が揺れた。下水道内で流れている水が噴出し、通り道を濡らす。

「今のって」

「……そんな……約束したのに」

 爆発音が意味する事。それは琥鉄の死。あの量の爆弾を身体に巻いていたのだ。生きている可能性は限りなく0に近い。

 聖飛はその場に崩れ落ちた。

「……琥鉄さ……ん……琥……鉄……さ……ん」聖飛の声は震えている。瞳からは涙が止めどなく溢れている。

 聖飛は感情に身を任せ地面を何度も殴った。拳は血まみれになっている。感情が痛みを忘れさせているようだ。

 聖飛の精神状態はかなり危険な状態なのは確かだ。

「聖飛さん?しっかりしてください」賢斗は聖飛の腕を掴んで、地面を殴るのを止めようとした。

「放せ」聖飛は賢斗の手を振り払った。賢斗はバランスを取れずに、尻餅を着いた。

「聖飛さん?」

「嘘だ、嘘だ、嘘だぁぁぁぁぁ」聖飛は叫んだ。琥鉄さんとの想い出が一瞬にして、崩れ落ちていく。どう足掻いても、それは止まってくれない。

「聖飛さん!琥鉄さんの為にも、ここから早く離れましょう」賢斗は立ち上がった。

「嫌だ。俺は琥鉄さんの所に戻る」聖飛は本来の目的を忘れ、感情でしかものを考えられない状態になっているように見える。この状態では正しい判断は出来ないであろう。

「何言ってるんですか!琥鉄さんは逃げろって言ってたじゃないですか」賢斗は再び、聖飛の腕を掴んだ。

「放せ。行かせてくれ」聖飛は賢斗の方を向いて、頼んだ。聖飛の顔は涙でぐしゃぐしゃになっている。

 賢斗は目一杯の力で、聖飛の頬を叩いた。頬は赤くなっている。

「え?」聖飛は驚いた。

「聖飛さん!しっかりしてください!今、正しい行動を取らないと、みんなが死んじゃうかもしれないんです。琥鉄さんは自分の身を犠牲にしてまで、僕らに可能性を託してくれたんですよ。その可能性を無駄にする気なんですか!聖飛さんは」賢斗は涙ながらに訴えた。

 ここで聖飛達が間違った判断すれば、世の中全てが仙石のものになってしまう。

「……賢斗」聖飛は叩かれた頬を押さえた。涙は止まった。

「頼みますよ。僕は聖飛さんが居ないと駄目なんですよ」

「……悪かったよ。いや、ありがとうな。賢斗」聖飛は正気を取り戻したようだ。

「……聖飛さん」

「目が覚めたよ。そうだよな。琥鉄さんが託してくれた可能性を無駄にしちゃ駄目だよな」聖飛は立ち上がった。

「そのとおりです」

「だよな。よし、行こうぜ。琥鉄さんの為にも、街の人々の為にも、そして、俺達の為にもな」

「はい」

 二人は走り出した。全ての可能性を救う為に。

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