第18話
五月二十日。夜が明け、静かな朝を迎えた。聖飛達はそれぞれ作業をしていた。
賢斗はテーブル前の椅子に腰掛け、ノートパソコンで、ステルス機関についての情報を調べている。
聖飛は作業を止めて、賢斗に歩み寄った。
「どうだ?なんか分かったか?」聖飛は訊ねた。
「いえ、全然です」賢斗は申し訳なさそうに言った。
「謝るなよ。ありがとうな」聖飛は賢斗の肩を優しく叩いた。
「はい。頑張ります」
「頼むわ」聖飛は自分の作業に戻ろうとした。
「聖飛さん」賢斗が聖飛を呼び止めた。
「どうした?」
「ちょっと、これを見てください」
「なんだよ」聖飛は賢斗のノートパソコンを見た。
画面には仙石市長が映っている。
「これって」
「生放送中です。今、仙石が話そうとしてるんです」
「マジか。ボリュームマックスにしてくれ」
「分かりました」賢斗はノートパソコンを操作して、音量を最大にする。
「おい。みんな来てくれ」
「なんだよ」
「仙石が生放送で何か言うぞ」
「それってマジなの?」
「本当?」
「マジだよ、マジ。だから、作業を止めて来てくれ」
「分かった」
紅礼奈達は作業を止めて、聖飛と賢斗のもとへ集まり、ノートパソコンの画面を見始めた。
「市民の皆さん。おはようございます。クリティア市長の仙石総一郎です」画面内の仙石は軽く頭を下げた。
「現在、クリティアでは大規模な神隠し事件が起こっています。不安に思われている市民も大勢いられるでしょう。ですが、安心してください。私達が必ず、必ずや。行方不明になった市民の方々を見つけ出します」画面内の仙石は熱弁した。
「意味分かんない。何でこんなに盛大に嘘つけるのこいつ?」
「正義のふりした大悪党だな。なぁ、聖飛」直哉は聖飛に同意を求める。
「だな」
「そして、家族が行方不明になった市民の皆さん。家族が見つかるまでの期間。私達が責任を持って、貴方がたの生活の面倒をユートピアでみます」ノートパソコンの画面に映る仙石は語った。
「ねぇ。これって物凄く私達に不利な状況になってない?」葵桜は言った。
「そうですね」
「これから職員が皆様のご自宅まで迎えに行きますので、心配せずに待っていてください。安心してください。絶対に貴方がたの安全は保障します」ノートパソコンの画面に映る仙石は優しい表情をしている。
「うん?あの人?」賢斗は画面を凝視した。
「どうした?」
「やっぱり、絶対にそうだ。聖飛さん。昨日の人です」賢斗は画面の端に映っている梨本を指差した。
「あ、本当だ。あいつだ」
「誰よ」紅礼奈は訊ねる。
「動画の人を殺した奴だ」
「え、マジ?」
「マジだよ。マジ。間違いない」
「それでは、私からの話は終わりにさせていただきます」仙石は、画面上から消えて、動画も止まった。
「……どうします?」
「ちょっとの間ここから動かない方がいいな」直哉は言った。
「私も賛成」
「何でよ?」
「今、動き出すと、俺達もユートピアに連れて行かれる。だから、ほとぼりが冷めてから動いた方がいい」
「そう言う事ね」
「だな。そうしょう」
「でも、これでデータがどこにあるか確実になったな」
「何で分かるんだよ」聖飛は訊ねた。仙石はデータの事に関して、一言も言っていないのに居場所が分かるのだ。意味が分からない。
「何でわざわざ大量の人を集めたと思う」
「計画の為だろ」
「それもあるけど、もう一つ理由がある」
「……もう一つ?」
「……データを隠すため」葵桜は答えた。
「正解」
「どう言う事だよ」
「どう言う事よ」
「そう言う事ですか」賢斗は納得した。
「そう言う事だ」
「説明しろよ。分かりやすく」
「そうよ」
「人が多ければ多いほど、それだけで強固なセキュリティになる。データを隠す為のとっておきの隠れ蓑なんだよ」直哉は分かりやすく説明した。
「そう言う事か」
「分かったけど。これからどうするのよ?」紅礼奈は言った。
「そうよね。市民のほとんどがユートピアに居るって事になるんだもんね」
「簡単には動けないわよ」
「……困ったな」聖飛は悩んだ。どうすれば、ユートピア内を自由に行動できるのか。
「何かいい方法ないですかね」
「なんか、施設内を自由に動ける透明マント的なものとかあったらな」
「何、ファンタジーみたいな事言ってんの。馬鹿じゃない」紅礼奈は言った。
「うるせぇな」
「やんの?」
「なんだと?」
聖飛と紅礼奈は睨み合っている。
「まぁまぁ、二人とも。こんな時に喧嘩は止めて。何か策を考えて」葵桜は、聖飛と紅礼奈を仲裁して、なだめた。
「悪い」
「ごめん」
「……施設内を自由に動けるか」直哉はボソッと呟いた。
「何かねぇかな」
「あ!いい案を思いついた」直哉は何か閃いたようだ。
「お前今日冴えてるな。言ってみろよ」
「問題です。俺の家は何屋でしょうか?」
「……服屋」聖飛は答えた。
「正解」
「でも、それが関係あんのかよ」
「ユートピアの従業員の制服を卸してるんだよ。うちの店」
「マジかよ」
「制服があれば怪しまれずに自由に動けますね」
「そう言う事。だから、ほとぼりが冷めたら、俺の家に制服取りに行くぞ」
「分かった」
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