第8話

五月十六日。昼下がり。

 聖飛は隠れ家に入る為に小屋のドアノブに手をかけた。

「……誰かいる」

 小屋のドアが開いていた。聖飛は小屋の中に入り、内側から鍵を閉めて、階段を降りた。

 階段を降りると、賢斗だけが居た。他には誰もいない。賢斗はテーブル前の椅子に腰掛け、ノートパソコンをテーブルの上に置き、操作していた。

「うっす」

「どうも」

「賢斗だけか?」

「はい。皆さんは今日用事あるみたいで」

「暇人二人って事か」聖飛は賢斗の隣に座った。

「そうなりますね」

「昨日は残念だったよな。結局何も分からずじまいだもんな」聖飛は溜息を吐いて、顔をテーブルの上に乗せた。

「……聖飛さん」

「なんだよ」

「なんと、手がかりになるかもしれないものを見つけてしまったんです」賢斗は得意げに語った。

「マジかよ。でかした。早く見せろよ」聖飛は興奮して立ち上がった。

「ちょっと待ってください」賢斗がノートパソコンを慣れた手つきで操作する。そして、「これです」とノートパソコンの画面を聖飛に見せた。

「……動画?」

 画面には、薄めの紺色のデニムジャケットを羽織った男が映っている。

「はい。告発動画みたいなんですよ」

「告発動画……見せてくれ」

「はい。了解です」賢斗は、ノートパソコンのボリュームを最大にして、動画をスタートさせた。

「みんな、騙されるな。クリティアは嘘で多い尽くされている。市長達は市民を何でも言う事を聞くロボットにしようとしている。もう一度言う。騙されるな……目に見えているものが全て真実とは限らない。提示されている情報だけが全て正しいとは限らない。自分で考え、調べ、感じて、正しいと思った事だけを信じろ」動画の男は熱く語った。

「……こんな感じです」賢斗はノートパソコンのボリュームを下げた。

「なんか、後半の言葉って、どこかで聞いた覚えないですか?」

「……昔、爺ちゃんに言われた言葉だ」聖飛は、険しい表情で答えた。

「やっぱり。だから、聞き覚えがあったんだ」

「でも、なんで爺ちゃんと同じ言葉を言ってるんだ?」

「分かりません。URL貼ってあるんですけど開いてみます?」賢斗は動画の下に表示されているURLを指差した。

「あぁ、開いてくれ」

「了解です」賢斗はマウスを操作して、URLをクリックした。すると、画面が変わり、パスコードをお願いしますと表示された。

「パスワード?見れねぇじゃねぇかよ」聖飛はうな垂れた。ようやく、手掛かりが手に入りそうだったのに、これでは、今までと何も変わらない。

「聖飛さん。僕の特技なんだと思います?」賢斗は自慢げに訊ねた。

「特技?……ハッキングか」

「その通りです。ちょっと時間ください」

「おう。頼んだ」

 賢斗が見たこともないスピードでタイピングを始めた。画面には意味不明な数字と英語の羅列が並んでいる。

 聖飛は口を閉じるのも忘れて、賢斗の神技かのような作業をまじまじと見ていた。

 数分経ち、賢斗の手の動きが止まった。

「よし、これでどうだ」賢斗はエンターキーを押した。すると、画面が変わり、一つのデータファイルが表示された。

「おぉ、開いた!やっぱり、お前は天才だな」聖飛は目を輝かせて、賢斗を称える。

「鬼才ですよ」賢斗は得意げな顔を見せた。

「そうだったな。お前は頼もしいよ」

「ありがとうございます。じゃ、見てみますか?」

「おう。見ようぜ」

 賢斗はノートパソコンの画面に表示されているデータファイルをマウスでクリックした。すると、データが開いた。

《英ゆうは語る。矢を抜け。そして、そのまま打て。もちんらすやそすにもにみちり。みらすかくやくちすこらすやといそすいか。しちかちやくちみしらひいす。もちんやぬよやちはかいすみららみ。かくすいいやかくにすかん》と画面に表示されている。

「なんだよこれ」聖飛は意味不明な言葉の羅列に対して嘆いた。

「暗号みたいですね」

「意味わかんねぇ」聖飛は頭を抱えた。

「解ける気しないですね」

「だな。全員居る時にしようぜ」聖飛は一瞬で諦めた。どうしようもないのだ。いきなり、こんなものを突きつけられたら。

「まぁ、少し前進ってとこだな」

「ポジティブに言えばそうですね」賢斗は暗号を保存して、ノートパソコンの電源を切った。

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