第6話

翌日の昼。賢斗以外の四人が学校の屋上で昼食を食べていた。

 昨日のニュースが嘘だったかのように当たり前のように普段と何も変わらない時間が進んでいる。

「昨日のニュース見たか?」

「見た見た。ユートピアのやつでしょ」紅礼奈は、聖飛の問いに答えた。

「それもだけどよ。細菌兵器のニュースだよ」

「そっちね」

「ワクチンがあるから大丈夫で言うニュースだよね」葵桜は言った。

「そう。でも、あれっておかしくないか?」聖飛は疑問を投げ掛けた。自分だけじゃなくて、他人も違和感を感じているのかを確かめたい。

「どう言う事だよ」

「だってよ。ニュースのタイミング良すぎだと思わないか。それに、あんな細菌兵器だったら、本土に持ち込まれるまでにニュースに何度かなってるだろ。海外で数千人に被害とかさ」

「……そう言われたら、たしかにおかしいな」直哉は手を口に添えて、真剣な顔をして考え始めた。

「賢斗はどう思うよ」聖飛は周りを見渡した。しかし、賢斗の姿が見当たらない。

「あれ、賢斗は?」

「購買部でお昼ご飯買いに行ってるよ」葵桜は答えた。

「そっか」聖飛は弁当箱の中に入っている卵焼きを箸で掴み、口に運んだ。


 六間目の終了を知らすチャイムが鳴った。二年三組の教室に居る生徒達は教師の号令で椅子から立ち上がり、教師に向かって礼をする。

 教師は教壇の上に置いてある教材を手に取り、教室を出て行った。

 教室に居る生徒達は理由もなくざわつき始めた。

 担任の大槻が教室に入って来た。生徒達は、一斉に黙った。先ほどのざわつきが嘘かのように。

 大槻は手に持っている物を教壇の上に置いた。

「お前ら、明日からの三連休、気を抜くなよ」

 クリティアには日本本土には無い祝日がある。祝日の名前は建島記念日。このクリティアが出来た日である。その祝日が明日、5月15日なのだ。

「先生こそ気を抜くなよ」「その通り。その通り」生徒達が大槻に茶々を入れる。

「先生が気を抜くわけないだろ」

「嘘つけ。相沢先生とデートだろ」聖飛が、大槻に問う。

「え、デート?そんな事はない」大槻はかなり動揺して、声を上擦らせて答えた。

「動揺したと言う事は、デートのご予定が?」

「うるさい」

「デートだよな。なぁ、直哉」聖飛はわざとらしく大声で、直哉に訊ねる。

「デートだな。確実に。嘘は駄目ですよ。先生」直哉の一言で、生徒達が笑い始めた。

「海野も九十九も黙らないと、宿題増やすぞ」大槻は、顔を赤くさせ、笑い声をかき消すように叱りつけた。

「すいませんー」「すいませんー」聖飛と直哉は全く反省せず、適当に謝罪した。


 聖飛と直哉は隠れ家に向かっていた。二人の視線の先には無人コンビニが建っている。

 クリティアには、数は多くはないが無人コンビニが数軒営業されている。従業員は誰も居ず、全ての業務はロボットで行われている。

「コンビニでなんか買っていくか」聖飛が無人コンビニを指差す。

「そうだな」

 聖飛と直哉は無人コンビニの前で立ち止まった。自動ドアが二人に反応して開く。しかし、二人は入らない。

「それにしても、気味が悪いよな。無人コンビニってやつは」聖飛は誰も居ない店内を見て、言った。

「そうだよな」

「なんでなんだろうな」

「やっぱり、人とロボットじゃ、温かみが違うんじゃねぇか。ロボットには温かみがないだろ」

「さすが。良いこと言うね」

「まぁ、学年一位だからな」直哉は得意げに答えた。

「嫌味か?」

「冗談だよ。それより、どうする?みんなの分買っていくか?」

「そうだな。爆買いしようぜ」

「言うと思ったよ」

 聖飛と直哉は店内に入った。


 爆買いを終えた聖飛と直哉は隠れ家のテーブル前の椅子に腰掛けていた。テーブル上にはお菓子やジュースが大量に入ったビニール袋が三袋ほど置かれている。

「それにしても遅いな」

「約束の時間より10分経ってるな」直哉はズボンのポケットから、スマホを取り出して、時間を確認した。

「だよな。早く来いよ」

 上の部屋から複数の足音が聞こえる。隠し扉が開けられ、複数人が階段を駆け下りて来た。

「遅くなって、すいません」賢斗は息を切らせながら聖飛と直哉に謝った。

 降りて来たのは、賢斗と葵桜と紅礼奈だった。

「遅いぞ」

「もうしわけ」

「ごめんね」

「遅れたの全部賢ちゃんのせいだから」紅礼奈は賢斗を指差した。

「酷くないですか」賢斗は不服そうに紅礼奈を見る。

「だよね。葵桜」紅礼奈は葵桜に同意を求めた。

「うん。賢ちゃんのせい」

「葵桜さんまでー」賢斗は溜息を吐いた。

「何してたんだよ」聖飛は遅れた理由を訊ねる。

「ちょっと充電器を買いに」賢斗は少し申し訳なさそうに答えた。

「充電器?スマホのか?」

「パソコンのです。ちょっと調べものしてたら電源切れちゃって。本当にすいません」

「ったく、仕方ねぇな」

「まぁ、座れよ」直哉は賢斗達に椅子に座るように促した。

 賢斗達はテーブルの周りにある椅子に腰掛けた。

「走ったら、お腹すいちゃった。食べていい?」紅礼奈は聖飛に聞いた。

「おう。食べろよ。みんなも食べろよ。俺の驕りだから」

「俺達のな」

「サンキュー」紅礼奈はビニール袋から、スナック菓子が入った袋を取り出して、封を開けて、中に入ってあるスナック菓子を食べ始めた。

「それでよ。調べものってなんだよ」

「ユートピアと細菌兵器の事です」賢斗はリュックから、ノートパソコンを取り出した。そして、買ってきた充電器をノートパソコンに差して、充電し始めた。

「昨日のニュースを見てか?」

「はい。あまりにもタイミング良すぎるなと思って」

「そうだよな。俺もそう思ってたんだよ」聖飛は同意見の返答が返ってきて嬉しく思った。

「だから、本土に居るネット友達に聞いてみたんです」

「……ネット友達ってさ。もしかして、ハッカーとか?」聖飛は恐る恐る質問した。

「はい。そうですけど」賢斗は平然と答えた。

「さらっと答えるよね。賢ちゃんって」紅礼奈は言った。

「ちょっと怖い」葵桜は賢斗の発言に引いているように見える。

「なんか変な事言ってます?」賢斗は周りに反応に驚きを隠せていない。

「まぁ、だいぶな」直哉は呆れた様子で答えた。

「いいじゃねぇか。そんな事。それより、調べた結果はどうだったんだよ」

「恐ろしい事が分かったんです。それも二つ」

「もったいぶらずに言えよ」

「はい。一つ目はユートピアの開園情報のニュースが本土の方では一切流れてないみたいなんです」

「はぁ?意味わかんねぇ」

「それに一週間前から、西区の本土と繋がる橋に交通規制が引かれてるらしいです」

「なんで、このタイミングで」直哉が賢斗に訊ねた。

「分かりません。それに明日からは一週間交通禁止になるみたいです」

「……それって隔離されるって事だよね」

「うちら、そんな事知らされてないわよ」

「そうなんです。それにネットの方も本土からアクセス出来ないようになってるらしいです。メールはなんとか大丈夫なんですけど」

「本当なの?それって」

「はい。友達がいくらハッキングを試みても駄目みたいで」

「マジ?孤島じゃん。ここ」紅礼奈は言った。

「それはやばいな。で、もう一つは?」聖飛は賢斗に訊ねた。

「……細菌兵器が存在しない事です」

「はぁ?デノイって言う細菌兵器が無いって事か?」聖飛は賢斗の言葉に驚きを隠せていない。そして、他の三人も。

「はい」

「それじゃ、テロリストも?」

「……はい。存在しません。本土では、そんなニュースは一度も報道されてないんです」

「……マジかよ」聖飛達は言葉を失った。

「……それじゃ、昨日のニュースはフェイクニュースって事か?」直哉は賢斗に問う。

「はい。フェイクニュースです。市長達がでっちあげたものだと思います」

「でも、なんでそんな事を」

「分かりません」

「そうだよね。意味が分からない」

「どうするよ?」直哉は聖飛の顔を見た。

「……どうするって、一つしかないだろ」

「なんだよ」直哉は嬉しそうに聖飛を煽る。

「調べに行こうぜ。ユートピアに。ユートピアに行けば何か情報があるかもしれないし。市長が何をしようか暴いてやろうぜ」聖飛は、椅子から立ち上がって、力強く言った。

「乗った。そうしようぜ」直哉は手を叩き、聖飛の提案に賛同した。

「面白そうね。うちも」

「まぁ、元々ユートピアに行く予定だったしね」

「僕は聖飛さんの提案は全て乗ります」

「じゃあ、決まりだな」

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