第34話
※
真っ暗な空間に、僕は武器も持たずに漂っていた。
目を開けても真っ暗で、耳を澄ませても音がなく、手足を動かしてみても指先に触れるものがない。
首と目だけを動かしてみる。すると、正確にはただ私服を纏っただけの僕の周囲を、いろんなものが回っていた。
それは拳銃だったり、ナイフだったり、自動小銃だったりといった、戦うための道具だ。
これらはいわば『暴力装置』と呼ぶべきもので、普段の僕なら欲するはずがない。
何故こんなものの中心に自分がいるのか。それを考え始めた瞬間、自然と顔が歪んでしまった。
暴力や破壊といったものから、遠く遮られた場所で生きていきたい。
それが不可能であることは、僕自身がとっくに知っている。
でも、だからといって諦めてしまうのは早いのではないか。
考えがここに至り、僕はようやく聴覚を取り戻した。といっても、いつものようにはいかない。僕が知る限り、自分の周囲を回る武器たちの中で、唯一こんな音を立て得るのは……拳銃、だろうか。
そうだ。空薬莢が床に落下して、甲高い金属音を立てているのだ。その数は二つ。
ああ、気を失う直前に聞こえたのは、まさにこの音だ。
二回の金属音は、ちょうど僕の頭上から降ってきた。誰が撃ったのか?
答えは明瞭簡潔だ。
(き、樹凛? 君なのか?)
僕が自分で声を発することは、未だ許されていない。脳内で文字を書き起こし、状況を把握していくしかないのだ。
定期的に聞こえてくる薬莢の音をなぞる。頭上から聞こえるというのだから、僕の隣にいる人物こそが射手なのだろう。
その人物が樹凛であれば、距離も発砲音も矛盾なく並べることができる。
それと同時に、僕の中で強烈な焦燥感が、ぶわり、と湧き上がってきた。
(樹凛! 来るな! こっちに来るんじゃない!)
僕は五感をいっぱいに使って、どこにいるとも分からない樹凛に呼びかけた。
手足を振り回し、がらがらと喉を鳴らし、前後左右、そして上下の空間を跳ね飛ばそうとする。
そのことごとくが、なんの結果も得られずに虚無へと帰していく。
しかし、ほんの微かに、そして僅かに、手足の先端が何かに触れる感覚が生じてくる。
この期に及んで、ようやく僕は察知した。
僕は拳銃で撃たれたのだ。暴力行為の対象となって、背後から一発喰らったのだ。
それに気づいた頃、胸中で生じた焦燥感は轟々と音を立てて燃え上がっていた。
(樹凛、来るんじゃない! 君まで暴力装置に吸い込まれていく道理はない!)
そうして、急速に僕の視界は光を取り込み始めた。
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