30話 アリア・エルフォード

「アリア、いるの?」

「気安く私の名前を呼ぶな。掟破りの似非エセ魔法使い風情が」


 跳び箱はガタゴトと音を立て動いており、まるで生きているようだ。


「ん、あれ? この似非魔法使いふぜ……ん?」


 決めゼリフと共に跳び箱から出て登場したがるアリアだが、それは叶いそうもない。なぜならエマがその声のする跳び箱の上に、足をブラブラさせながら座っているのだから。

 

「おい、誰だ。私がいつこの箱の上に乗ることを許可した?」

「そんなのでいちいち許可貰ってたらなにもできないよー」

「エマか、エマだな。お前くらいなら私の腕力で持ち上がるは、ず……なに? エマ、もしかして見ない間に太ったのか……」

「あ、タクミちがうよ? 今重力強化魔法で跳び箱重くしてるんだよ? 私の体重が重くなったわけじゃないの。確かにミラクレアに来てからちょっと食べ過ぎな部分はあるかもだけどそこまでじゃないし、なんならちょっと太って丁度いいくらいで」

「……私暗所恐怖症&閉所恐怖症なんだ! 頼むもう出してくれ! 怖くてどうにかなりそうだ! はっ……おいエマ、特別に私をこの箱の中から出す許可を与える!」

「ああ、もういいからエマ。とりあえずどいてやれ話が進まない」


 こっちの世界でも相変わらずだな、コイツらは……。

 

「お、覚えておけエマ! お前なんぞ私の手にかかれば――」

「はーいはい。わかったわかったー」

「貴様! 人の話を聞け!」


 跳び箱から脱出したアリアは涙目でそう言い寄るもエマは耳に手を当ててそっぽを向いている。


「落ち着けアリア。話なら俺が聞くから」

「……気安く私の名前を呼ぶな。お前なんか顔も見たくない」


 クソッ、これじゃあ埒が明かねえ。


「エマ、頼む。ここはひとつ大人になってくれよ」


 エマに駆け寄りそう耳打ちすると、


「仕方ないなー。アリアは相変わらず融通利かない精神年齢五才だなー」

「なに、今の言葉、聞き捨てならないな」


 はっきり聞こえるようにいうエマ、挑発に乗るアリア、どっちも負けず劣らずどうしようもないガキだ。

 

 アルガルドでの魔王討伐パーティー結成時から二人はいつもこんなかんじだった。

 アリアがエマの誘いに乗って揉めて、追い詰められたアリアが苦しい言い訳をして――それを見かねた俺が仲裁に入ると罵倒され、荒れまくった場を最後セインが一言たしなめると何事もなかったかのようになる。理不尽な役回りに納得いかない気持ちもあったが思い返してみるとそれなりに楽しい時間だった。


「杖を取れエマ。ここでお前の息の根を止めてやる」


 頭に血が昇ったアリアはなにもないところに手をかざす。するとそこの空間が歪み、刀がゆっくりとぬるぬる出てきた。


「おい、やめろアリア!」

「黙れ! お前の言うことなど聞くものか!」


 俺に一瞥もくれず、アリアは鞘から刀を引き抜いた。エマはそれをなにもせず、ただじっと見つめている。


「なんだ怖じ気付いたか? ではこちらから行くぞ!」


 丸腰のエマ目掛けてアリアは勢いよく刀を振り上げた。

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