【3thこえけん】神様がくれた時間 ~クリスマスイブの奇跡~

マクスウェルの仔猫

第1話 最後のクリスマスイブ

「クリスマスイブにお呼ばれされるなんて……サンタクロースさんのお手伝いをさせられてしまうわよ?」


 声に力が入らない。ずっと覚悟していた事とはいえ、この夜が峠、と言われてしまうと……いつものように繋ぐ手にさえ、力が籠ってしまう。驚くほど弱々しい自分に、最後まで頑張れ、情けない姿を見せるな、と𠮟咤する。


 50年。

 

 居眠り運転の車から子どもを助けた貴方は、意識を失ったまま二度と目を覚まさなかった。



 貴方の笑顔を見れる日を願い続けた。けれど、その希望は……この病室の窓の外で降りしきる粉雪のように、儚い姿を見せては消えていく。そんな日々だった。


 それでも。


 それでも、本当に幸せだった。



「あの子、今日はお孫さん連れてきたわね。可愛い女の子。貴方が助けた命が、新しい命の護り手になるって素敵。……もう、手土産はいらないって言ってるのに、律儀過ぎなのよねえ」


 健一君は来る度に、手土産だけじゃなく涙も置いていく。助けてもらった自分ばかりが、こんなに幸せでいいのかって。


「『貴方が幸せだと言うなら、私達も幸せですよ』って言っているのにね。年は近いけど息子みたいに感じるの、うふふ」


 こんな時、もし貴方だったら何て言うのかしら。


『僕らの幸せは、僕らが決めるよ。ほら、君は背筋を伸ばして!』


 そんな風に言いそうね。しょっちゅう悩みの相談を持ち掛けられてた貴方は、人をよく見ていた。柔らかな笑顔ときめ細やかな優しさで、学校でも人気者だった。


「懐かしいわね。あの頃の事をたくさん思いだしてきちゃったわ」


 ……そうだ。


 最後の夜だから、楽しかった頃の私達の思い出をひとつひとつ、紐解いていきましょうか。


 いっそ、話し方もあの頃のようにしてみたり、とか。


「こんなお婆ちゃんが若い人の言葉遣いをするなんて可笑しいだろうけど、驚いた貴方が飛び起きるのを期待して冒険してみようかしら。変だったら、ちゃんと訂正してね?」


 何てね、うふふ。

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