第14話 高校の体育祭開催
雲ひとつない青く澄んだ爽やかな空の下、高校では体育祭が行われた。
数日前から体育で、長距離走と短距離走のどちらに出るか、リレーのアンカーは誰にするかなど、クラスの中で盛り上がっていた。体を動かすことが好きだった愛香は、体育祭実行委員会に立候補して、前日から準備が始めていた。当日は、体育祭記録係になった。学校の白い屋根のテントの中、日差しを避けることはできた。暑さ対策は首に冷たいタオルを巻くくらいだ。愛香は気持ちそわそわした。体育祭実行委員の担当は小高千晃先生だったからだ。校内で女子に大人気。ビジュアルも授業も性格も人柄もすべてが、人間として生徒や先生に好かれている。男子からは、嫉妬心からか不人気であることもある。全員に好かれることは難しいものだ。人間関係の法則で人は何割に好かれて、何割に嫌われるというものがある。それを気にしながら生きていない。嫌われても気にしない。ましてや、好かれすぎてもストーカーまがいが起きることも否めない。
テントの外に出て、黒い帽子をかぶりなおした千晃先生は、腕を組んで外の様子を伺った。
校庭のトラックを全学年順番に300mリレーを開始した。一番盛り上がる競技だ。愛香のクラスで一番足の速い
「白崎さんって何番目に走るの?」
「……あまり足速くないから5番目かな」
「あ、そうなんだ。俺、6番目だからバトンよろしく」
「最後だもんね。責任重大」
「転ぶなよぉ」
隣に腕を組んでいた千晃先生は、ぼそっと言う。その言葉に暁斗はくすっと笑う。
「白崎さん、この間、転んでたもんね」
「え、なんで知ってるの?」
「俺、陸上部だから転んだの目の前で見てたよ」
「あー、そっか」
「白崎さん、転んでも俺がフォローするから、任せて」
「……転ばないよ!!」
愛香は頬を膨らませて言った。千晃先生は、鼻でくすっと笑って立ち去った。
1年生のリレーが終わり、終了の合図のピストルが鳴った。
どの学年が勝利かどうかの記録をメモした。
2年のクラスメイトたちはスタートラインに集まった。愛香と暁斗も席を立ち、移動する。校庭の端を歩いていると、暁斗は声をかける。
「白崎さんって、小高と仲いいの?」
「え、小高って?」 「担任の小高千晃だよ。何か、この間も病院連れてってもらったんでしょう」
「……うん、まぁ」
「保健の先生じゃないんだよね。なんで担任が行くんだろ」
「え、たまたまでしょう」
「普通、行かないよ」
「……そ、そうかなぁ」
暁斗は千晃先生に嫉妬した。昨年からずっと愛香と同じクラスで、この実行委員会も一緒にやりたくて立候補していた。
「俺さ、白崎さんからバトンもらったら、絶対1番取るから。見ててよね」
「……ごめん。何かそういわれるとプレッシャーだよ。転んだらどうしよう」
「さっきまでの強気な心はどこ言ったの?」
暁斗は落ち込む愛香の顔を見て、疑問符を浮かべた。
同じクラスの菅原美紀と菊地陽葵も一緒に列に並ぶ。手をふって、それぞれの順番に並んだ。
走るのが苦手が愛香は、前の人が2番目のを最後の最後、5番目に下げてしまった。息が上がったまま、ゼッケンをつけた暁斗にバトンを渡す。
「俺にまかせろや」
ダッシュで、前の走者を次々と越していくが、さすがに距離が遠くて、ぎりぎり2番目でゴールにたどりつく。最下位だったのが、暁斗の走りで一気に2番までのぼりつめた。陸上部の速さには同級生もたじたじだ。ガッツポーズで愛香にアピールする。拍手でこたえた。
見つめ合う2人の姿を横から見る千晃先生は、何となく不機嫌にゴールのそばを立ち去った。後頭部をぼりぼりとかく。
(恋愛対象はやっぱり同級生の方がいいんだろうな……)
終了の合図のピストルが鳴り響く。
青空にはスズメの親子がびっくりして飛び立った。
愛香はあまり話したことのない暁斗と接点ができて新鮮だった。少しだけうれしかった。
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