#2
「出過ぎた事かもしれんが……この者、本当に信用できるのか?」
狐少女は鋭い眼差しで俺を睨むと、螢に強く尋ねる。
「仲間なんてモノは信用できん……螢は絆されやすい節があるが、よもや友達ごっこにでも踊らされているのではないか?」
ビー玉を嵌め込んだような透明感のある金色の瞳には、妖しい光と憎しみが溢れているように思えた。
その視線に当てられた俺は、なぜかその目から焦点を逸らしてはいけない気がした。ここで逸らしたら何か大切な物を失いような、そんな苦々しい予感。
「……どこの誰だか知らないが、アンタに螢の何がわかる?」
今にも唸り声を上げて飛び掛かってきそうな狐少女を鼻で笑った俺は、眉間に皺を寄せる。
「ほぉ……我に逆らうとはいい度胸だ!覚悟しろ……」
顎を上げて見下ろすように笑った彼女が、立派な耳を水平に倒して地面を踏み締めると、今まで感じた事のないつむじ風が強く吹き抜け、穏やかだった草木が音を立てて揺らぎ出す。
来る──そう思って身構えた瞬間、「いい加減にしろよッ!」と俺の前に螢が両手を広げて庇う様に立ちはだかった。
「どけ、螢!我が精査してやる」
「うるさいッ!……もうお前の為になんか、曲は書かない!!」
杜を揺らす狐少女と、初めて見る本気で怒った螢。
──「お前の為になんか、曲は書かない」?
俺は目の前に広がる光景に絶句し、それ以上に螢の言葉に首を傾げる。
「な?!それは卑怯だぞ!!」
「先輩は僕のいるバンドのメンバーだし、僕の大事な人なんだ!……もしなんかあったらタダじゃおかないぞ!!」
螢はほぼ無意識に言っているのだが、後ろで聞いているこっちの身にもなって貰いたい。
小っ恥ずかしくなった俺はわざとらしく咳払いを1つすると、「螢」と声を掛ける。
「あっ……」
我に返ったのか、振り返って急激に顔を赤くする螢は茹で蛸の様な顔で「全部白のせいだぞ!」と狐少女に駆け寄った。
「ん?……顔が赤いぞ、どうしたのだ?」
不思議そうに小首を傾げる彼女は、螢の照れ隠しの八つ当たりをひらひらと蝶の様に避けて笑う。
「絶ぇぇぇ対ッ、作んない!」
泣き出しそうな子供を見ている気分にもなるが、螢は至って真剣に狐少女を追いかけ回す。そして、暫く2人で戯れあったところで狐少女は、「わかったわかった」と降参の意を示して両手を空に手上げた。
「わかったじゃない、岡部先輩に謝れよ」
「はぁ……人間の分際で偉そうに」
「なんか言った?」
「……さっきは悪かった。……これで満足か?」
嫌々頭を下げた彼女は、小さな舌を出して俺を一瞥する。
「すみません、先輩……」
「いや……」
どこから突っ込めば良いのかも分からず、俺は鳩が豆鉄砲を食ったように固まりながら、頭の中で必死に言葉を探す。
この子は何?
どういう関係?
曲を作る理由は?
そして──俺をここに連れて来た訳は?
こんがらがった思考回路のまま螢を見つめる俺に、螢は苦笑いのまま頭を掻く。
「実は……曲を作りたいって昴に言ったの、白の為なんです」
言いにくそうに目を伏せた螢は、どこか恥ずかしそうに横目で狐少女を見て頬を緩ませた。
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