11 薬草

 『薬屋 神秘の瓶』へ到着した。

 薬草を干しているのが窓の外からも見える。

 いかにも魔女の家という感じだ。

 扉を開けると薬草の匂いがしてくる。

 

 

 

 ドキドキしながら店に入ったけれども、私は拍子抜けしてしまった。

 というのも薬が並んでいるであろう棚がほとんど空になっていた。

 

 少し店内の様子を見てみたものの、毒消しや麻痺直しなどすぐには使わないだろうなと思う商品しか無かった。

 仕方がないので店を出ようとすると奥から声を掛けられる。



 

「あら、また来訪者が来たのかい!残念だけどアンタらが買うような薬はないよ。見ての通り品切れさ!調合してもすぐに売り切れる。大量に作ろうとしても材料がない。採取依頼を出してもほとんど薬草が届かない。自分で採りに行くくらいなら、その時間で少しでもポーション調合した方がマシってもんさ。」

「あの、私、採取依頼受けました。」


 慌てているのか焦っているのか、随分な早口で言われると怒られているようでちょっと怖い。

 そのまま店を出ていくのは無視してるみたいだし、でもなんて言えばいのか分からない。

 設定されたストーリーじゃないからか会話アシストも出てないし……。

 

 とりあえず何とか返事をしようとしたら言い訳みたいになってしまった。


 

「そうなの?でもねぇ、採取依頼受けるだけ受けて全然納品されないのよ。来訪者の達成率は討伐依頼と納品依頼に偏っているってさっき来たギルドの子が言ってたのよ。アンタも討伐依頼のついでにたくさん受けた内の1つなんでしょう?それに依頼1つ分くらいじゃ焼け石に水だしねぇ。」

「その、採取依頼4つしか受けていないんです。」


 詳細を見る前に他の依頼は諦めてしまったけど、そうか他の依頼も期限がないんだったらついでに受注しておけば良かったんだ。

 言われて初めて気が付いた。

 こういうちょっとした事で私がゲームに慣れていないって実感する。



 

「4つともなの!あらあらそれは御免なさい。ちゃんと考えてくれる子もいたのね。アナタお名前は?」

「えっとモカです。」

 

 でも何だか良い感じに受け取ってくれたみたい。

 

 ……それにしても説明でもないのに私の5倍喋ってると思うくらい話してる。勢いがすごい。


 

「モカちゃんね。さっきは失礼な事言ってごめんなさいね。いろいろ一杯いっぱいでね。」

「……いえ。」

「そうだわ!お詫びって訳でもないけど、アナタ指定した薬草がどんな見た目の薬草か知っているかしら?これが《ヒールリーフ》雫の形が特徴の葉よ。葉がギザギザしていたり茎に棘のような毛の様なものが生えていたら別モノだから注意しな。こっちが《マジックミント》丸い葉と柔らかい手触りが特徴だね。香り高いモノが良いモノだからね。そしてこの《ヘルスハーブ》は反対にしっかりとした硬い葉なのよ。一般的な葉っぱのイメージの様な葉なの。どれも緑の葉だから、黄色とか茶色とかに変色していないものを選ぶようにしなさいね。そうそう当然だけど採取するときには採取道具を使いなさいよ。素手でも上手に採取できる人なんてよっぽど器用な人だけなんだから!」


 急に話が変わって驚く。

 確かに見た目を知らないから教えてくれるのは有難いけど、メモもしていないから何となくの特徴を覚えるので精いっぱいだ。


 

 

「あらあらお礼は良いわよ。アナタは依頼を達成しやすくなる、ワタシは薬草を早く手に入れられる。win-winっていうものね。まぁどうしてもっていうなら何か商品を買ってくれればいいわ。何が欲しいかしら?」


 いつの間にか薬を購入する流れになっていた。

 元々買い物のために来たのだし、別に良いんだけれど何だか釈然としないような。

 

 

「回復系は……」

「そうよね!アナタも来訪者なんだからポーション系が欲しいわよね。ちょっと待っていなさい。ちょうど今調合が終わったポーションを並べるところだったのよ。どのポーションにする?HP?MP?SP?」


 どれがあると良いんだろう。

 HPポーションはいるとして、確か〈技術スキル〉にMPかSPを使うんだよね。どっちを買えばいいんだろう。

 悩んでいることに気づいたのか向こうから聞いてきた。



 

「来訪者だしまだ慣れてないの?それじゃワタシが決めてあげるわ。そうね持っている〈スキル〉って何かしら?」

「〈心得:生活〉と〈技術:丹念〉と〈技術:目利き〉です。」

「あら良い〈スキル〉構成ね。〈心得スキル〉は特に何も消費しなくて〈技術スキル〉はSPを使うわ。HPポーションとSPポーションで良いわね。それぞれ100シェルずつだけど在庫はそうないから各3つまでにしてね。」

「じゃあ3つずつ下さい。」

「ありがとう。合計600シェルよ。」



 =『特殊クエスト チュートリアル⑤』を達成しました=


 

「それじゃあモカ、ヨロシクね!」

 

 ……そのままの勢いで会話が終わってしまった。

 嵐のようなヒトだ。

 今までこういうタイプの人が周りに居なかったから、何だか慣れない。会話しただけで疲れてしまいそう。

 とはいえ悪いヒトではなさそう。


 それに売り切れだと諦めた買い物ができたから、結果的には良かったのかも。

 

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