第3話 試験と超パワー




 予期せぬ形で特殊部隊へ加入する事となったエリーシアは弓を持たされ、他の隊員達と共に巨大樹の前に立たされていた。



「な、何ですか……!? わ、わたし弓なんて触った事も――」


「よし。皆、弓と矢は持ったのう? ではこれからお主らの実力を測る為、試験を行う。そこの巨大樹の前に立てた的を寸分違わず射るのじゃ! 技を見せ付けたい者はどんな放ち方をしても良い。存分にやってみせよ!」


 彼女の言葉は族長の声に掻き消され、誰の耳にも届かなかった。

 そして族長の言葉通り他の隊員達は様々な体勢や距離から弓を引き、矢を放ち始めた。


「ほう……。皆やるのう……。全員見事に的を射っておる」


「それはもう! 我がエルフ族が誇る弓の精鋭部隊ですから!」


 他の隊員達の見事な弓裁きに唸る族長と、それを自慢気に話すフィン。

 しかしその中で唯一、未だ一本も矢を放てずにいる者がいた。



「どうした、エリーシア? お主もさっさと矢を放たんか?」


「え、だからわたし弓なんて触った事無いんですって……!!」


 族長が声を発すると同時に、他の隊員達は一斉に矢を放つのを止める。

 そしてそこに集まる隊員以外のエルフ達までもがエリーシアに注目していた。



「エリーシア! 早うせんか!!」


「は、はいぃ!!」


 エリーシアがそう躊躇していると族長の檄が飛ぶ。

 反射的に返事をしてしまった彼女は渋々弓を引き、的へ狙いを定める。


「……えいっ!!」


 そして彼女が目を瞑りヤケクソに放った矢は、的から大きく外れあさっての方向へと飛んで行く。


「何じゃ……? どこを狙って……?」


 族長がその矢を見ながら首を傾げていると、偶然物凄い風が吹き矢の向きを変えた。


「…………っ!?」


 矢の動きに注目していた面々は、クルッと方向転換し一直線に的へ飛んで行く様に驚愕していた。

 

 そしてその矢は風の影響とエリーシアの【超パワー】の影響により、物凄い勢いで『シュパンッ!』と音を立てて的を貫通した。


「あれ……?」


「「「おぉーー!!!」」」


 そして戸惑いを隠せないエリーシアを他所に、里の人々からは歓声が巻き起こる。

 しかし、エリーシアの【超パワー】によって放たれた矢の威力はこんなものではなかった。



 小さな的を貫通した矢は更に勢いを増し、後ろの巨大樹に向けて飛んでいたのだ。

 そして『ドガァーーーーン!!』という大きな音と爆発の様な威力を伴い、的の後ろにあった巨大樹に大きな風穴を開けた。

 

 すると先程まで歓声を上げていた者達は口を大きく開け唖然としていた。

 


「あ……あ……。里のシンボルである巨大樹が……」


「ご、ごめんなさいぃ……! こんなつもりじゃ……!」


 エリーシアはペコペコと何度も頭を下げ謝った。

 他の隊員や族長、フィンやその他の野次馬達はそんな彼女と大きな穴が開いた巨大樹を交互に見て、ただ口をパクパクとさせ驚愕していた。


 暫くそうしていると重苦しい雰囲気の中、族長が口を開いた。


「す、凄まじい威力じゃ……! しっかりと的にも命中していたことじゃし、戦闘での活躍を期待しておるぞ……!」


 族長は顔を引きつらせながらも、エリーシアの矢の威力を賞賛した。

 するとその他の人達も一拍置いてから次々に彼女を持ち上げ讃え始めた。


「凄い威力だったな……!」

「これなら盗賊が攻めてきても大丈夫だな!」

「エリーシアは我々エルフ族の守り神だ……!!」


「え、えぇ……?」


 絶対に族長に叱られると思っていたエリーシアは全員が自分を褒め称えるという状況に戸惑っていた。

 なぜならそれは彼女にとって生まれて初めての経験だったからである。

 

 それもそのはず、彼女は生まれつきこの【超パワー】という能力を持っていた。

 そのせいで幼い頃から多くの事で悩まされて来た。


 軽く叩いた机は真っ二つに割れ、グラスや皿はいくつ割ったか数え切れない。

 彼女の家の扉は何度修理しても壊してしまう為、布を掛けているだけだという。


 そして彼女も大人になり、その能力をある程度制限する事が出来るようになっていた。

 しかし未だ油断していると先の様な大惨事を起こしてしまう為、仕事も運搬業務など能力を活かせるものに限定して生活していた。


 加えて、幼い頃に両親を亡くしていた彼女を褒めてくれる人などはとうにおらず、そんな彼女にとってこの状況は夢にまで見た光景だったのだ。

 

 そして族長はパンパンと手を二度叩き、皆の注目を自分に向けた。



「静まれ皆の者! 試験の結果は皆合格。そしてこれよりこの特殊部隊のリーダーをエルフ族最強の弓使いエリーシアとする! 異論は無いな?」


「「おおぉー!!!」」


 族長はエリーシアを特殊部隊のリーダーに任命した。

 すると周りの人達もそれに同意するかの如く歓声を上げた。

 


「わ、わたしがリーダー!? ムリムリムリムリムリ!!」


「よろしく頼むわね、エリーシア?」


「ふんっ! 私が二番手に甘んじてあげるんだからしっかりしなさいよね!?」


 エリーシアが驚き首をブンブンと横に振り続けていると、右からイルス、左からニーナが肩を叩き、声を掛けてきた。


「わたしがリーダーなんて無理ですぅ! わたしのノーコンっぷりを見たでしょう!? ねぇ二人からも何とか言ってくださいよォ!!」


「初めて触ったにしてはとてつもない威力だったわね。今後に益々期待だわ?」


「何よそれ!? あんな化け物じみた威力見せ付けておいて。弓を始めて十年になるこの私に対しての嫌味かしら!?」


 必死に自分の無能さを伝えるも、二人には響かなかった。

 

「何でわたしの言う事を誰も聞いてくれないのー!?」


 そう言うとエリーシアは天を仰いだ。


「大丈夫よ。貴女に出来ない事は私達がフォローするわ」


「そうよ! リーダーなんだからシャキッとしてなさい!」


「絶対フォローしてくださいね……? わたし、ほんっとうに弓は下手くそなんですからね!?」


 イルスとニーナに励まされ、エリーシアは顔を上げ弓が下手な事を胸を張って主張した。

 二人はそんな彼女に不安を感じつつも、愛想笑いをし頷いた。

 するとそこへ族長が声高らかに宣言する。



「諸君、よく聞け!! 愚かな盗賊達は未だ、この里を目指して森を進んで来ておる! 決戦は明朝。作戦をしっかり立て、必ずこの里を守り抜くのじゃ! よいな!?」


「「「「「はい!!」」」」」

 

「は、はいぃ!!!」


 エリーシアは周りにつられて思わず、族長の言葉に大きな声で返事をした。





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