とんでも威力の弓使い〜【超パワー】持ちのエルフ少女はまさかのノーコン!?それでも奴らは攻めて来る。〜

青 王 (あおきんぐ)

第1話 エルフ族と人間




 その昔。

 世界には様々な種族が手を取り合い、平和に暮らしていた。

 そんな中、とある種族が急激に勢力を伸ばし始めた。


 その種族とは人間族。

 人間族はみるみる内に数を増やし、知恵と技術で武力を高め、気が付けば全種族の頂点に君臨した。


 それでも尚、人間族と友好的な関係を築いていた種族は多くあり、人間族の街にも他種族が数多く出入りしていた。


 しかしそんなある日。

 人間達の狡猾で残忍な部分が見え始める。


 人間達は他種族を極悪非道な手段で捕え、貴族に高値で売る為の商品奴隷としたのだった。


 そんな事もあってか、人間達による他種族を狙った暴行や拉致が頻発した。

 そしていつしか人間族の領土から他種族の者達は姿を消した。




 ◆◆◆◆



 それから数十年――


 未だ衰えを知らない人身売買の闇は更に大きなものとなり、今では奴隷オークションまで開かれる様になった。

 売り出される種族も、人魚や獣人、エルフや亜人、など多種多様であった。


 しかし、大きくなり過ぎた市場は次第に需要と供給のバランスが崩れ始める。

 そう。他種族の奴隷を求める者が増えて行く一方で、街で一切見かけなくなった他種族の奴隷が捕まえられなくなってきたのだ。


 すると人間達は次に、他種族が住む領地へ足を踏み入れ出した。

 そうする事で人間達は大量の奴隷を確保する事が出来るようになった。


 しかしまだ問題はあった。

 それは多種多様な種族の中でもかなり人気の高い種族、エルフ族が中々捕まえられない事だった。


 エルフ族は他の種族とは違い、深い森の中に里を作り生息しており、その里の場所は誰一人として知らなかったのだ。

 

 しかし人気の高いエルフ族の需要と価格は益々高まっていき、痺れを切らした人間達はしらみ潰しに森を探索し始める。


 ◆◆◆◆

 


 そうしてまた数十年かけた頃。

 人間達はようやくエルフ族の里がある森を発見した。



「ヒッヒッヒ! この森の奥に必ずエルフの里があるはずだ! 必ず数十人は捕まえんだぞ! いいな!? 野郎共!?」


「「「「「うぉー!!!!」」」」」


 怒号にも似た雄叫びを上げ、奴隷商人が雇った盗賊達は森の中へと侵入して行った。

 


 ◇◇◇◇


 

 エルフの里がある森の中には沢山の動物や草木があり、自然豊かな環境だった。

 

 エルフ達はそんな自然の中で動物を狩り、植物を育て自給自足の生活をしていた。


 そんな時、人間達が侵入して来ているとも知らず、いつもの様に森へ狩りに出るエルフの夫婦がいた。

 その夫婦は自らの子に出発の挨拶をしていた。



「今日も美味しいご飯を作ってあげるから、お家で大人しく待ってるのよ?」


「暇だからと言ってその辺の物を壊すんじゃないぞ?」


「わかってるよ! いってらっしゃい! お父さん! お母さん!」


 そう言うと夫婦は我が子を愛おしそうに抱きしめた。


「行ってくるよ、エリーシア。愛してる……」


「私も愛してるわ、エリーシア。すぐに帰るからね」


「うん! わたしもお父さんとお母さんだーいすき! 気を付けてね!」


 そして親子は離れ、夫婦は我が子を家に残し森へと向かった。

 すぐに帰ると約束をして……。



 ◇◇◆◆



 夫婦が森に入ってすぐの事――

 二人は異変に気が付いた。


「なんだか今日は森が騒がしいわね……」


「あぁ。動物達も慌ただしく走り回っている。何かあったのか……?」


 

 するとそこへ木々の陰から盗賊団がにやけ顔で現れる。

 

「ヒッヒッヒッ! ようやく見つけたぜぇ……」


「なんだお前達……。どうやら道に迷った訳ではなさそうだが……?」


「どうせ今から死ぬ男のお前ェに名乗っても意味は無いが、冥土の土産に教えてやる。俺はディーク。この盗賊団のかしらだ」


「盗賊団だと……!?」

 

 男エルフは妻を守るように前に立ち盗賊達へ睨みを利かせる。

 しかし彼等には全く通用しなかった。


「えーん。この男エルフ、目がこわいよぉー!」

「森に迷い込んで帰れなくなっちゃったんだよぉー!」


「お前ら……。俺をなめているのかっ……!?」


 盗賊団を警戒し睨み付ける男エルフに対し、にやけ顔でからかい始める盗賊団の下っ端達。


「ヒッヒッヒッ! いやー。さっきも言ったが男のエルフに用はないんだわ。とりあえず……死ねや?」


「お前、何言って――」


 その特徴的な笑い方と片目に傷を持つ盗賊団の頭ディークはそう言い、目にも止まらぬ速度で男エルフに近付き、腰から抜いた拳銃で彼の眉間を撃ち抜いた。


「キャアァァァァァ!! あなたっ……! あなたァァァ……!!」


 突然目の前で夫を撃ち殺された女エルフは倒れた夫に駆け寄り涙を流しながら悲鳴を上げた。


「チッ。ピーピー喚くんじゃねぇよ! ……ったく、おー、耳いてぇ。おいお前ェら! さっさとその女連れて来い!」


「へいっ! でもカシラ! その前にこの女も一回……いいっすか?」


 ディークに命じられ下っ端達は泣き喚く女エルフをロープで縛り上げる。

 そしてその中の一人の男が下卑た表情で女エルフの身体を眺めそう言った。


「ヒッヒッヒッ。ったく節操のねぇ奴らだなぁ。好きにしろ! だが中は駄目だぞ。あと顔も殴るな? 大事な商品だからな……」


 そう言いディークはその場に腰かけ、下っ端達に犯される女エルフの姿を無表情に眺めていた。



 ◆◆◆



 暫くして、下っ端達は事を済ませると女エルフを麻で出来た袋に詰め込み森を抜け始めた。


「ヒッヒッヒッ。エルフの里近くの森を歩いただけで五人も女エルフが手に入ったぜぇ……! 一人一億ゴルドだとしても今日だけで五億ゴルドの稼ぎだ。これで当分遊んで暮らせそうだ……!」


 ディークは森を抜ける前から既に金の勘定を始めていた。


「ちょっとカシラァ! 俺達にも少しは分け前くださいよぅ!?」

「そうっすよ! 俺らだってちゃんと働いたんすから!」


「お前ェらはもう既に五人分の女エルフで十分満足してんだろうが!? 金は全部俺のもんだ! お前ェらは黙って商品運んでろタコが!!」


「そんなぁー……。そりゃあないっすよぉー」

「てか、エルフの里の奴ら。俺達の事に気付いてないっすかね?」


「大丈夫だ。今頃気付いていたとしてももう遅い。なんたって俺達ァもう森を抜けたんだからよォ……! ヒッヒッヒ……」




 ◇◇◇◇◇




 盗賊団が森を抜けた頃。

 エルフの里では――



「族長……!!」

 

 エルフ族の族長の元へ諜報部隊の女エルフが血相を変えて駆け寄って行く。


「なんじゃ、一体? そんなに慌てて?」


「それが……。くっ……!!」


 族長がそう聞き返すと、女エルフは言葉を詰まらせる。

 

「なんじゃ!? さっさと言わんかっ!?」


「じ、実は……。先程人間の盗賊達が森へ侵入し……同族達を攫って行きました……。女は五人攫われ、男は十人殺されました……」


「なんじゃと……!!?」


 女エルフの報告を聞き、髪を逆立て怒った族長は持てる全ての魔法を駆使し、全速力で森を駆けた。


「くそ……! くそっくそっくそがぁ!!! 人間共めぇ!!!!」


 しかしそこに盗賊団の姿は既に無く、エルフ族は心に大きな傷を与えられるも復讐する事も出来ず、泣き寝入りを余儀なくされた。

 

 族長は自責の念に駆られ自害を試みるも、他の者に止められそれすらも叶わなかった。



 ◇◇◇◇◇



 そしてその後。

 家で両親の帰りを待つエリーシアの元へ先の女エルフが訪ねて来た。



「はぁい! あれ? フィンさん、どうしたの?」


「ごめん。エリーシア……。ごめん……」


 泣きながらひたすらに謝るフィンという女エルフにポカンとした表情を浮かべるエリーシア。


「君のお父さんは人間の盗賊達に殺され、お母さんは攫われてしまった……。皆より足が速い私が、もう少し早く森の異変に気が付いていれば……。本当にごめん……」


「え……え……? 嘘……だよね……?」


 フィンの言葉を聞き大粒の涙を流し、そう聞き返すエリーシアに彼女は黙って首を横に振った。

 それだけで全てを理解した幼いエリーシアは空に向かって泣き叫んだ。

 

 

 その日、エルフの里には珍しく雨が降った。

 まるで両親を亡くした幼い女の子の涙を隠し、流すかのように。





☆☆☆★★★☆☆☆★★★


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